豪雨予報の通知とともに、青空を押し退け、バラバラと降りだした雨 レターパックを濡れないように抱えて走るお地蔵さんの小さな屋根の下で、制服の高校生が三人、ぎゅっと集まって雨宿りをしている 仕事場に辿り着いても、大粒の雨は止まずふしぎな天気、と…

2019年のファイルのなかに詩画集の一頁を開いた写真を見つけた ドミニク・ゼルフュスの絵とパトリック・モディアノの詩ストックホルムのModerna Museetでこの本を買って、すぐに開いたのを覚えているからたぶんそのときのものだろうけれどなぜ、この一篇だっ…

どうしても、この糸のセーターが着たくて夜中などにすこしずつ編んでいる 日記を見ると、9月17日にはじめているからきのうでちょうど2週間わたしにしてはまあまあのペースで、とりあえず肩の部分を編み終わった セーターは、編みかただけではなく組み立ても…

ときどき仕事をしているカフェふた月ほどあまり行けていない間に、店員さんが、ほとんど入れ替わっていた ちょっとせつなく思うけれど、そういうものだとわかっている変わらない店がここにあるだけでも、十分ありがたいとちくちくした寂しさを飲み下す カフ…

休みにするつもりが結局朝からずっと仕事をすることになった、きょう 夕方、やっとすこし休憩ロンドンで買ってきたばかりの本と、ようやく編みはじめた自分のセーターを前にそういえばこういう時間はひさしぶりかも、と気がつく このところの、言葉がでてこ…

きょうも、6時ぴったりに目が覚めるお茶を淹れて朝食をとり、デスクワークをあれやこれやと片づけて郵便局が開く時間に合わせて、荷物を出しに こちらを出るのは2日後だけれど梱包はもう、7割方終わっているどれくらいを手持ちにし、どれくらいを送るのかと…

夕方、部屋に戻ったとたんけたたましいアラームの音 原因が自分の部屋ではないことを一応確認してから、ゆったり着替え、近所での買い物に必要なものを揃えて外に出た火災報知器に慣れすぎるとこうなる 外では、ふたつ隣の部屋に滞在している女性がベーコン…

あるギャラリーから公園までの、ポルトへ来るたびに歩いている通り沿いたくさんの絵本が壁に飾られた、新しい店を見つけた 入って近くで見てみると、絵本は全部古本で、ポルトガルの作家のものも、英語圏などの作家の翻訳のものもあるどれも素敵だったけれど…

ぎりぎりまでベルリンで仕事をして飛行機に乗り、移動の後、倒れるように昼まで眠る 目覚めると、窓の外からリスボンのざわめきなにもかも夢じゃなかったのだと、ほっとした夏休みのはじまりだ わたしにとって、ポルトガルは、旅らしい時間を約束してくれる…

きょうの仕事を終えた、午後4時半ホテルに荷物を置き、歩いて自然史博物館へ ベルリンでは、日曜の夕方がちょっと空くことが多いそんなときには、この場所に足が向く 先人の時間が詰まっている、博物館が好きだそこにいるだけで視界が広く、明るくなるような…

関空から、北極の上を飛び降り立ったミュンヘンは気温32度、真夏だった 展示会にヴィンテージの買い付けにと予定がぎゅうぎゅうの夏出張がスタートまずは、3年半ぶりのドイツだ ミュンヘンへ来るのは実は3度目毎度、いい街だなあと思うのだけれど毎度、なん…

波のような音をたてて窓ガラスに吹きつける雨 スーパーもファミレスも休みの街きょうは、郵便局の集荷も来られないらしいわたしも家から出ずにデスクワークをしていたものの、結局、梱包をしなければどうしようもないので雨と風の音だけが響くなか、事務所へ…

お客さんから届いたお葉書この風景はフィンランドかしら、と見てみるとやはり、《ケイテレ湖》とあった 1906年、まだフィンランドという国がなかった頃の景色一世紀以上の時が流れても、時勢が変わっても湖は湖、そしてフィンランドはフィンランドだ カード…

不穏な雲と、追ってくる蝉を横目にあまりの暑さにぐらぐらしながら、事務所へ出かける 重い体を引きずって、片づけ流しのまわりで乾かしていたグラスが床に落ち、きらきらとした音がして粉々に砕けた 透明な破片をひとつひとつ拾い集め、こんなに細かくなる…

店をはじめてきょうで6年なぜか記念日が29日だと思い込んでいたところに、大きなお花のアレンジメントが届く えっ、きょうだっけ!?と慌てて調べるとたしかに2017年の7月28日オープンだった彼のほうがわたしよりもちゃんと把握していて、感心するやら可笑し…

忙しくなるであろう八月を前に、ひと休み横浜へ行ってきた わざわざ三連休に、しかも行き先を横浜にしたのは、単純に、この時季は東京で働く恋人が忙しいのでカレンダー以上の休みは取れず、遠出も難しいからだった(そして、いまを逃すとつぎに会うのはもう…

早朝から店で仕事をしたあと予約時間に間に合うよう、ネイルへ 夏らしい案を考えて海岸に流れ着くガラスのようにしてもらう淡い、水のかけらのような爪 この爪が伸びるころには、と想像したもろもろをかき消したとにかく、集中して、その日一日を生きなくて…

半分休みの水曜日事務所へ出かけ、ゆったりデスクワーク 取引先への連絡などをすべて終えてとりあえず買ってきた缶からマグにコーヒーを移し、ソファがわりにすることにした寝椅子に座るそういえばこれ、工芸学校でもよく着ていた服だ、と作業着が変わらない…

小雨のなか傘を閉じて八の字に茅の輪をくぐり、人形を書く六月三十日、夏越の大祓 何事もなく続いていく毎日を、もう無邪気には信じられない昨今気持ちにぐっと力が入る 水無月の夏越の祓する人は千年の命延ぶといふなりじっと黙って心の中でそう唱えている…

紫陽花の人だかりから、すこしだけ離れた場所背の高い木々の陰になるようにして、ひっそりと、大きな紫陽花の株が並んでいる 誰もいない小径ひとりしゃがんで、重たげな花を支える茎を見上げるわたしには、ここが特等席だ 紫陽花園も、より特別に思っている…

オープン以来お世話になっている花屋さんがここに合いそうだったのでお貸しします、と持ってきてくれた花瓶 あまりにもこの場所にぴったりで、これ、買い取ったりできます?と気がついたら訊いていたいや、だって、こんなにしっくりくることってありますか …

事務所にいる時間が短い営業日眺めていたくて、花びんを連れて店へ 枯れてしまったお花や、元気のない葉っぱを取りすこしボリュームがなくなったので、フィンランドの青いガラスに入れ替える なんども渡ったバルト海を思う深い、青 祝日がないうえに雨も多い…

仕事の日曜日事務作業のために店に戻ってくると、ドアの前に、花束 パステルカラーの花々に顔を近づけると添えられていたメッセージカードが目に入ったいつもの狭い廊下には、眩しいくらいに光が差していて、このビルのオープニングパーティーの日みたいだっ…

近くて遠い、奈良と大阪へ案外旅らしい旅 最初は、和歌山まで行こうとしていたのだけれどのんびりしすぎていて、行き先を奈良に変更なんだかんだ、これくらいの速度がちょうどいい 鹿を愛する彼は、鹿せんべいをわたしにひと束持たせ、思いっきり追われる様…

夕方遅く、違う場所でデスクワークをしたくて、仕事場の近くのカフェに出る 春になってからは、遅い時間に行くとほとんどデザートが売り切れになっているその店よく会う店員さんに、これはまだあります?と訊くとあ、たぶん、とちょっと砕けた感じで答えてく…

重なるにわか雨で葵祭の行列が延期になった、きょう 一日の仕事を終えて、緑の葉が光る並木道を歩くずいぶん日没が遅くなり、日々享受する景色は、きらきらと明るいものになった 雨上がりの土の匂い、夏の形に近づいている雲葵の季節の瞬間瞬間は、小さなわ…

月に一度の編み物教室を前に、どうしても裾のリブを終わらせたくてじっと作業していたら、3時 とじ針を使うItalian Bind Offは慣れても複雑で集中しないと間違えそうだったので、音楽もかけられないただじっと手を動かしていると、スウェーデンの工芸学校に…

ストックホルムを訪れるたび、かならず立ち寄る本屋がある これまで、たくさんの時間をここで過ごしてたくさんの本をここで買ってきたスウェーデン語がどんな段階にあっても、あらゆる時や場所につながるようなこの本屋は本を、言葉を、自分自身を楽しむ術を…

ゴールデンウィーク、祝日の谷間やっと行けたネイリストさんのところで、爪を春らしい緑に変えてもらった わたしの本名は、翡翠に由来している子どもの頃は堅く感じていやだったけれど、留学中、何人もの中国から来ていた子たちに美しい字だと褒められ名前の…

ビフォーアフター新しい事務所を、静かに始動させた 写真ではほとんど見えないのだけれど実はあちこちがボコボコ、汚れも目立っていた壁に青みがかったやさしい緑の壁紙一気に思い描いていた空間に近づいて、好きな色というのは偉大だと、しみじみ思った も…