あるギャラリーから公園までの、
ポルトへ来るたびに歩いている通り沿い
たくさんの絵本が壁に飾られた、新しい店を見つけた

入って近くで見てみると、絵本は全部古本で、
ポルトガルの作家のものも、英語圏などの作家の翻訳のものもある
どれも素敵だったけれど、一冊に吸い寄せられるように目が行った
どうやら鏡が主人公らしい、ちょっと不思議な雰囲気の本

入口のところにいた女性が、電話を終え、
なにか説明しましょうか、と英語で声をかけてくれる
この絵本はポルトガルの作家のものかと訊くと、
そうよ、鏡の本、と彼女は笑顔になって
一頁一頁、ゆっくりと確かめるように、内容を教えてくれた


美しいと思うものを自由に映していた鏡が、
自分自身がいちばん美しいと思うようになり
誰も、なにも、映せなくなってしまう話
その鏡は、屋根裏に入れられてしまって忘れられ、
寂しく、自分より美しいものはあるのかと問いつづける

そこで物語が終わったことに驚いて、
ハッピーエンドではないけれど、こうあるべきだと思う、
とても印象的な話ね、と口にすると
そう、つまり、他人をちゃんと見つめないといけないということ、
自分だけではなく、他の人をね、
それがなにより大切なことよ、と彼女は微笑んだ

その言葉の重さに、動けなくなり
屋根裏の鏡の絵に視線を落とす
わたしは、どうだろう、
本当に、この鏡のようになってはいないだろうか


自分自身をどう保って、どう客観視するか
そして、彼女の言う、
“他者のことを見る”というのはどういうことか
互いに慎重に言葉を選びつつ、そんな話をする
こんな風に、まっすぐな眼差しに出会うのは、
もしかしたらひさしぶりかもしれないと思いながら

愉しい時間を過ごし、絵本のお会計を頼むと
彼女は、よかったらサインをしましょうか、
この本の物語はわたしが書いたから、と言った

こんなことが起こるの、
こんなに色んな人の本がある中から一冊を選んだのに、と目を見開くと
彼女は、わたしも驚いたのよ、とからから笑い
きょうここで話しただけだけれど、
あなたはきっと、他の人を見ることができる人だと思う、と力づよく言って
サインとともに、そうメッセージを書いてくれた

あたたかいハグをして、会えてよかったと言い合って、
励まされたような気持ちで店を出た

 

わたしは、仕事上、
自分自身の底から多くのものを引き出さなくてはいけない
だけど、自分と向き合うことしかしなければ、
どうしたってただの独りよがりだ

耳をすまして、心をそとに向かわせて
それではじめて、誰かに届くようななにかが生まれるのだと
肝に銘じなければならないし、
それが最善だと、信じていたいとも思う
あたりまえのことだけれど、こう言葉にすることは、
案外ないものかもしれないね


帰ったら、この本は
大切に、いつも目に入る場所に飾っておこう
自分自身をちゃんと疑えるように
そして、きょうの記憶に支えてもらえるように

きっと、いつになっても、何度でも思い出す
明るい午後だった