ぎりぎりまでベルリンで仕事をして
飛行機に乗り、移動の後、倒れるように昼まで眠る

目覚めると、窓の外からリスボンのざわめき
なにもかも夢じゃなかったのだと、ほっとした
夏休みのはじまりだ


わたしにとって、ポルトガルは、
旅らしい時間を約束してくれる、特別な場所
何度も繰り返し訪れているということもあるけれど、
異国情緒と、取り残された気がしない温かさが
心地よく、両方感じられるのが、ちょうどここなのだと思う

ポルトガルの水辺と、時の流れを感じる街並み、
おおらかな人々や、影の濃い文学が好き
きっと、これからもずっとそうなんだろう


リスボンには、何度も来ているので
あえてどこかへ行くことは、もうほとんどなく
今回も、アズレージョ博物館を再訪したくらいだった
あとはあてもなく歩き、ときにはトラムに乗って、
気になる場所があったら止まるだけ
古本屋を覗いたり、新しくできたカフェでコーヒーを飲んだり
時計を見ることなく過ごす

毎回、かならずやることといえば
階段になっている路地を上って、テージョ川を望むことくらい
隣に立っては離れていく人たちの声を聴きながら、
飽きるまで景色を眺め
そして、また海にも似た川辺へと戻る

明るく水面に反射する光に目を細めて
人に慣れている逃げないかもめの隣で、
ただ、行き交うヨットを数える
そういう時間のために、わたしはここにいるのだった

 

さわやかな空と
心の曇りを軽く吹き飛ばすような風

フェルナンド・ペソアが暮したリスボン
彼も、大西洋につづく大きなテージョ川からの風を、
こうして潔く感じたりしたのだろうか

“私は自分自身の旅人
そよ風の中に音楽を聞く
私のさまよえる魂も
ひとつの旅の音楽”

愛してやまないペソアの詩を、繰り返す
彼の詩に出会うまで、わたしは、
どうやって孤独を宥めていたのだろうと思いながら


夕食のあと、遅くまで営業している書店で
ペソアの、ポルトガル語と英語の対訳詩集を買った
この国の言葉が全然わからず、
そのことに正直安らいでもいるわたしだけれど、
彼の詩のほんとうの響きは知りたい

この場所の空気のなかで
ただ感じたいことが、たくさんある

怠惰な旅人なりに
目を、耳を、開いて