きょうも、6時ぴったりに目が覚める
お茶を淹れて朝食をとり、
デスクワークをあれやこれやと片づけて
郵便局が開く時間に合わせて、荷物を出しに

こちらを出るのは2日後だけれど
梱包はもう、7割方終わっている
どれくらいを手持ちにし、どれくらいを送るのか
とにかく包んでみないことにはわからないからだ

10キロを超える大きな箱を、
400mほど先の郵便局へ持って行く
着くころには腕はすっかり痺れていて
手首を振ったりしながら、なんとかペンを持った

箱をひと足先に日本へと送り出し、
わたしは、この町で残る仕事へ急ぐ
これまでに、幾度となく過ごしている、
せわしない、愛おしい朝


午後2時、買い付けの仕事を終え、
カフェでサンドイッチを食べていると
さっきまで会っていたディーラーさんからメッセージ
整理していたらもう一袋リングが出てきたから、
戻れそうなら戻ってきて、とあった

思わず笑ってしまいながら
わかった、すぐ戻る、と返信
彼女の“一袋”は、30点から40点ほどを指すからだ

彼女は、わたしが欲しがりそうなものを知っていて
いつも取っておいてくれるのだけど
よく、袋ごと、こうして失くしたり見つけたりする
たくさんありすぎてよくわかってないのよね、とのことで
それはまあそうだろうなと、こちらも納得している
かわいい人なのだった

袋の中身を確認し、もう一度お会計をして
次は来年の春か夏かなと、もう一度最初から別れを惜しんだ
そういえば、彼女のところが
この旅最後の仕入れだったんだな、と思いながら

 

今回の出張でも、
本当にたくさんのヴィンテージ品を買い付けた
もちろんこれは店に並んで、
いずれお客さんの手に渡るためのものなのだけれど
それでも、これだけのものを買う決断を、
それも瞬時にしていく、というのは
わたしにとって、ぜんぜん普通のことではない

“きみは自分の求めているものをよく知っているから
一瞬でいいものを選べるんだよ、
だからそのことを忘れずに
その力を使ってほかの人のためのものも選ぶといい”

尊敬しているジュエラーの友人が、
いつかそう言ってくれたことを、大切に携えている
ひとつのものも中途半端な気持ちで買わないように、
そして、なにもかもが怖くなってしまわないように

 

 

夕方、ウォレス・コレクションに立ち寄った
大学のころから、考えごとをしたいときに
よく訪れていた場所のひとつ
一世紀以上、このままの状態で公開されている、
侯爵のプライベートコレクションが主の静かな美術館だ

この小さな美術館の中に、ひっそりと、
小さな肖像画と小箱だけが集められた部屋がある
17世紀、18世紀からずっと、
慈しんで並べられてきた、小さきものたちの姿は
自分が続けてきた勉強や仕事を悲観しがちなわたしに
その強い存在感をもって、勇気をくれる気がしている

このわたしの秘密の場所は、
きょうも、変わらず御利益があった
験担ぎっていうより、充電に近い感覚ではあるけれど
まあまあ、こういうのは、信じれば信じるほどいいんだよ


きょうは、いい仕入れができたのはもちろん、
自分のブラウスを買ったし
人への贈りものもいろいろ見つかったし
本屋に寄ったら好きな作家の新刊が出ていたし
なんだか、いい買い物ができる日だったな

最終日の明日は、新しいものをとにかくたくさん見る
きょうの幸運を引っ張って、
勇ましくおおらかな気持ちで