小雨のなか傘を閉じて
八の字に茅の輪をくぐり、人形を書く
六月三十日、夏越の大祓

何事もなく続いていく毎日を、
もう無邪気には信じられない昨今
気持ちにぐっと力が入る


水無月の夏越の祓する人は
千年の命延ぶといふなり
じっと黙って心の中でそう唱えていると、
母に、くぐらないの?と話しかけられて笑ってしまう
彼女はいつだってこうなのだ

下半期も、しょうがないなあとぼやいたりできる、
ささやかな毎日があるように

 

わたしの子ども時代の記憶には、いつも
近所の生菓子屋さんがある
和菓子屋さんというか、お餅屋さんというか、
そういう、飾らない店

餅菓子でいっぱいの、いかにも古そうな大皿が
どっしりといくつも並ぶ店内
春はいちご大福やさくら餅、初夏はかしわ餅、
そしてこの時期は水無月
あの場所のお菓子は、いま思えば季節そのものだった

その記憶があるからか
この時季は、水無月を食べないとなんとなく落ち着かない
実際、子どもの頃は、
ほかのお菓子のほうがずっと好きだったから
ほとんど水無月は選ばなかったけれど、それでも


そんなわけで、とくに今の仕事をはじめてからは
厄は除けられるだけ除けたいという気持ちを込めて
仕事場の近くの和菓子屋さんで水無月を買い、
もくもくとひとり、デスクで食べている
わたしなりの年中行事

きょうも仕事前にその店に立ち寄って、水無月をお願いすると
ぐるりと竹皮でひと巻きして輪ゴムで留め、
このままでええかな、と訊いてくれた
もちろん、すぐそこなんで、と答えながら
どこまでも日常のその瞬間を思う

なんでもない瞬間に願いは宿る
こういうことが、どうかいつまでも続いてほしいと

 

時空の狭間にいるような、心許なさとともに
とにもかくにも半年が終わる

7月は、仕事もそれ以外もぎゅうぎゅう詰め
穏やかにゆっくりと日々を過ごしたいだなんて、
とてもとても言えないという感じだけれど
それでも、これからの半年が
平穏なものになることを、ただ祈っている