紫陽花の人だかりから、すこしだけ離れた場所
背の高い木々の陰になるようにして、
ひっそりと、大きな紫陽花の株が並んでいる

誰もいない小径
ひとりしゃがんで、重たげな花を支える茎を見上げる
わたしには、ここが特等席だ


紫陽花園も、より特別に思っているこの株たちも
年じゅう、見に来る
とくに春先からの、力づよく瑞々しく伸びる葉の様子は
毎日違って、毎日驚かされる

だから、花ざかりには気持ちが入ってしまって
どうしてこっちの花を眺める人は少ないのだろう、
こんなに美しいのに、と、思ったりする
まあ、でも、いつだってなんだってそうだけれど、
人の目に触れることが幸せかというと、そうでもないのかもしれない

無二の色と造形
誰のために咲くでもない紫陽花には、
言葉は似合わない


夾竹桃の花が終わりにさしかかり
蝋梅は実をつけている
この間まで枯れてしまったように見えていた蓮は
ぐんぐん伸びて、大きな蕾を抱えていた

変わっていく植物の様子に、わたしはいつも、
目まぐるしいこの世界から振り落とされてしまうような、
自分ひとりだけがここに残されてしまうような気持ちになる
だけど、そんな風に感じられるからこそ、
わたしには植物との時間が必要なのだと思う

情報の渦、慌ただしい日々、進んでいく季節
ついていけていないなあ、どうしようねえ、とたゆたう時間が
わたしには、必要

 

きょう、ひさしぶりに、同業の方とお話をした
普段は、自分と似たものを扱っている方のお店へは行かないのだけど
たまたまその隣の店に用事があって通りかかり
ウィンドウにあまりにも心惹かれて、吸い込まれてしまったのだった

店に立っていたのは、この道30年の大先輩
アメリカをベースに仕入れをしているそうで、
コスチュームジュエリーも、陶器なども
すばらしい品揃えと審美眼にひっくり返りそうだった

その店は、通販はほぼすべて断り、宣伝もほとんどしていない
友達のためなどに商品の写真を撮ることも断っているそうだ
実物を見てもらわないとね、という言葉に、
おこがましいのだけれど、わたしもそう思います、と頷いた

実はわたしも店をやっているんです、という最初の告白を
あたたかく受け止めて、たくさんの話をしてくれ
最後には、そんなわけで、ここでこんな店をやっている人がいます、
よければまたいつでも来てください、と声をかけてくれた
素敵な方だった


なにより嬉しかったのは、
確固たる信念を持って、ずっとこの仕事をしているその方の
商品につけているお値段が、うちとほとんど同じことだった
高すぎないし、安すぎない、まさに適正とわたしが思う値段で
よく商品を知っているお客さんには安すぎると言ってもらえるし、
あまりご存知ない方には高すぎると言われてちょっと辛くなったりもする
そういう価格設定

インターネットは、色々なものにあふれていて、
検索をしたお客さんにお値段を比べられたりする
同業の方とお話する機会をほとんど作らないわたしは、
その苦しさの行き場もなくこれまで店をやってきていたけれど
感覚が近い大先輩のお話を聞いて、胸のつかえが取れた気がした


一目惚れしたオールドノリタケのお皿と
オーストリアのブローチを買って帰り、ほくほくと眺めた
うちのお客さんも、こんな気持ちになってくれたりするんだろうか

ヴィンテージのものを熱心に見はじめて、もう20年になるけれど
プロとしては、まだ6年
まだまだひよっこなわたしの道を、
ぼんやりと照らしてくれるような、午後だった