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紫陽花の季節

毎年、わたしはあるお寺に紫陽花を見に行っているけれど
今年は悩んだ末、諦めることにした
まとまった時間バスに乗ることが、どうしても憚られるからだ


公共交通機関も、外食も、まだ解禁できずにいて
東京で働く恋人とも、半年以上会えていない

それでも、自分の店があり
近所にはたくさんの花が咲いている

だから大丈夫だとは、まあ、正直なところ思えないけれど
すこしずつ、明るく

 

きょうは、馴染みのお客さんたちに会えた日だった
うれしくて、すっかりはしゃいでしまい、
夜になっても、気持ちの真ん中がまだ熱をもっている

店を再開してから
わたしは、ほんとうに元気になった
お客さんとの他愛ないやりとりに潜む、無数の美しい欠片は
傷ついたことも多く、そもそもあまりに忙しすぎた去年には、
こんな風には見えなかったものだ

しかし、お客さんといえど、親しみのある方を前にすると
もう喋りがほぼ素になってしまっているよ
ダメなことのような、いいことのような

 


 

今年あたまの出張中に、よく聴いていたKAWALA
彼らの新しい曲が、いまの気分に案外しっくりくる

I’ve been waiting, waiting to see what for
And I’ll find a ticket to ride


ショパンノクターンしか聴きたくなかった頃からすると
劇的に回復したと言うべきか

もうすぐ7月
いまのわたしなりに、季節を楽しむんだ

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雲が晴れ、大きな窓から光が差し込んだ瞬間
自分の場所を、本当に美しいと思う

初めて、瓦礫だらけのこの部屋に来たとき
なにより心ひかれたのが、窓だった
大通りに面した北側と、中庭に面した東側にある窓は
どちらも大きく、両方を開けると風が通り抜ける


水色に塗った壁のところに掛けた花の束が
風で揺れ、光が乱反射する
三年前、まだ工事中だったここを訪れた恋人が、
プールのようだと言ったことを、思い出した

そのときは、それは店の壁としてどうなんだと悩んだけれど
初夏のプールのような店というのも、中々いいのかもしれない

 

予約営業をはじめて二週間
さまざまなことが起こってはいるものの、
まずまず、うまくいっているんじゃないかと思う

お問い合わせの状況などを見ていると
やっぱり、普通に開けると特定の時間が混みそうだし
とにかく狭い店だから、皆が安心してゆっくり見られるようにするには、
今は、この体制がいちばん良いんじゃないかしら
ただの雑貨店に予約なんて、申し訳なくは思うけども

こんなときだからこそ、楽しんで帰ってほしい
これがあれば明日が楽しいというものが、できれば見つかってほしい
そう、願うだけ

 

きょうは朝から、二千枚の画像の確認作業
一枚一枚に写るイヤリングを確認し、
数少ない買い付けるものに印をつけていく

現地で、何千何万というものを見ていたのは
本当に効率がよかったのだなと、しみじみ
そのときは、たいへんだ、目が疲労で死ぬ、と思っていたけれど
画像や動画に比べたら、あれはどうってことなかった


この状況になってから
買い付けは、以前よりずっと手間がかかるようになった
ヴィンテージはこういう感じだし、
いまの作家さんのものも、詰めることがこれまで以上に多くある

だけど、往来ができないというのに、
こうして仕事をしていられるなんて、すごいことだ
この時代でよかったし、仕入れを始めて三年半が経っている今でよかった
そうでなかったら、そもそも商品の維持ができなかったに違いない


以前に輪をかけてメール対応の仕事も増え、
とてもじゃないけれどウェブには手が回らず
どうすればいいのやら、だけれど、がんばりたい

お客さんが来てくれること
店に立っていられることの、幸せを
毎日、思っている

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夏じゃない、まだ夏じゃない
そう念じつづけてきたけれど、
まあ、夏だね

行き場のない気持ちを
ワンピースとピアスに託す
こうなったら、この陽射しを謳歌しようじゃない


とはいえ、寒さに強く暑さに弱いわたしは
すでにもう、ぐったりしているわけで

店、これから窓を開けてマスクで営業なんてできるのかしら
お客さんのこともわたしのことも心配

 

きょうは、編み物のクラスだった
出張と自粛で、なんと半年ぶり
皆から、ヨーロッパ行ってたんやろ?大丈夫やった!?と、
2月の心配をしてもらって申し訳なかった

テレビかなにかで見たんやけど、
編み物って、すごい脳が幸せになるらしいですよ、と誰かが言って
手を動かしますもんね、フワフワを触るしね、
こんなときは特にええよね、と、皆が口々に言う
編み物好きの集い


わたしもずいぶん、自分でなんとかできるようになり
今回は先生に特別聞きたいことはなかったけれど
それでも、クラスはとても勉強になる
皆や先生が編んでいるもの、糸をじっくり見られるし
先生が誰かに教えているときは、一緒に聞かせてもらって
こういうときはこうするんだな、こうしたらこうなるんだな、と
自分ひとりより、ずっと沢山のことを得られるのだ

そしてなにより、ワイワイ編み物の話ができるし、
皆が楽しい方だから本当に楽しい
ひさしぶりに行けて、あらためてそう思った

来月も、再来月も、
できればもう、中止になりませんように

 

教室の片隅に
ノルウェーの、ある地域のミトンの本を見つけた
なんてマニアックな、とぱらぱらめくりながら
今年の9月に行くはずだった、ノルウェーを思う

ひさしぶりにベルゲンから船に乗り、トロンハイムまで行くつもりで
ひっそりと楽しみにしていたのに
悲しいのを通り越して、不思議な気持だ


9月の大きな展示会のひとつは
先週、中止になった
もうひとつ、行くはずだった展示会も
中止がアナウンスされるのは時間の問題だろう

今は、誰もが耐えるとき
保証がないのも、先のことを考えなくてはいけないのも、
それを苦しく思っているのも、わたしだけじゃない

わたしだけじゃない、なんて
なんの役にも立たない言葉だけれど
こればかりは、じたばたしても仕方ないってこと


オンライン展示会を楽しみに
ヴィンテージ品のオンライン仕入に時間をかける

こんな毎日も
いつか、懐かしく思うのかな

日曜日
店で、きのうやり残した仕事を終わらせ
窓につく雨粒を眺めながら、アイスコーヒーをカップに注ぐ

ほの暗い店が、不思議に心地よくて
そのままデスクで『若草物語』を読む
I・IIを合わせた新版が出てから、
一冊、自分のものを裏に置いているのだった

 

現代を生きる多くの女性にとって
この物語の主人公は、きっと、
オルコットが自身を投影したという、次女のジョーだ
まっすぐに、強情に、孤独に生き方を模索する姿は
わたしにとっても、自分自身を映す鏡で、
こうありたいという姿や希望でもある

それでも、今は
ほかの誰よりも、末っ子のエイミーに惹かれる
ローリーに、軽蔑している、とお説教する一場面などもそうだし
たとえば、自分には芸術家としての才能がないと率直に話したり、
結婚後、才能があるのに恵まれない人たちの支援をしたいと言うところ
要領がよく、多くのものを手に入れる人として描かれてはいても、
エイミーの言葉には、迷いを振り払う賢さと強さがある
子どもだったときには、読み取れなかったけれど


グレタ・ガーウィグ監督の映画
予告や短い動画を見る限り、四姉妹それぞれ、
もちろんエイミーも、とても魅力的

イギリスのPrime Videoにあったから
喜んで再生しようとしたら、日本からはだめだった
映画館に行きたいけれど、さすがにまだ難しいかなあ

 


このエイミーの詰め方よ
それこそ、あのお説教はどうなっているんだろうか
もし原作に近いシーンが映画にもあるなら、
ローリーが蒼白になるくらいガチガチに詰めていてほしい

 

店を再開した、今週は
多くのことを考えられず、怒涛のように過ぎていった

できる限りのことをしたつもりだけれど、
お客さんが、どう感じたのかはわからない
楽しい時間を過ごせたと、思ってもらえていればいいのだけど


三月以前、よく来てくださっていた方たちに
三日間で何人もお会いして、それが本当にうれしかったな
予約ではじめてお名前を知った方が多いので、
お顔を見たときの、この方だったのか…!という喜びが凄かった

ただの、小さないち雑貨店なのに、
わざわざ予約をしてまで(!)、足を運んでくれる
こういう店があるのだと、忘れないでいてくれる
それが、どんなに得がたく、ありがたいことか、
もう、よく知っているから


なにはともあれ、再始動
まあ、ずっと仕事はしていたわけだけれど、
やっぱり店に立つと、背筋がのびる

わたしも、この小さな場所を守れるくらいには、賢く強くありたい
そう、思っている

 

若草物語 1&2

若草物語 1&2

 

 

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雲ひとつない空に誘われて
ほんの少しの散歩

紫陽花の咲く小径は
たくさんの見物客で賑わっていた
日傘を閉じ、人のいない株の前に立って、
陽に透けるうす紫の花々を見上げる


ついこの間まで芍薬が咲いていたところは
すべて花が終わり、誰も居らず静まり返っていた
どうにも切なくなってしゃがみ込み、深い緑色の葉を眺めた

もし、花がわたしたちのように何かを感じるとすれば
人間はいったい、どんな風に見えるだろう

 

もう、初夏を通り越し、盛夏の風情で
冬からのあまりの差に、単純に驚いてしまう
日本の、長い長い夏

また長袖を着る日には、どんな状況になっているかしら、と
どうしても、考える
一秒たりとも、何事もなかったようにはなれない、
自分にいい加減うんざりしてしまう


店で作業をしなければいけないことを、思い
すこし元気になって、コンビニで冷たいコーヒーを買った
未来のことよりも、まずは、今だ

それにしても
ふた月以上もあって、
しかも、毎日けっこうな時間仕事をしていたはずなのに
なんでウェブショップの準備どころか、
再オープンの準備だけでも追いつかないのかしら

 

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昨秋から今春にかけてとくによく着たワンピースたち
ついに、クリーニングに出した

三着とも大好きだから
しばらく着られなくて、寂しいけれど
また、秋にね

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肩まで伸びていた髪を
いつもの通りの長さまで、切った

3ヶ月半ぶりの美容院
どうしようもない状態だったものを、バッサリやって
とにかく気持ちがいい

自粛生活をともに過ごした髪、なんて言うと、
ほんの少しだけ、惜しい気もするけれど


美容師さんもわたしも、マスク姿で
開け放した窓からは、ちっとも涼しい風は入ってこなくて
それでも、会えてうれしかった

いつもの場所に、いつもの人がいて
わたしの扱いにくい髪や肌のこと、
仕事や好きなもののことを覚えてくれている
そのありがたさよ

 

あらためて考えてみると
わたしは4月、5月と、いちども徒歩圏から出ていない
3月上旬には、その後大変な状況になるのを予期していて
必要な買い物などを済ませておこうと出歩いていたものの、
3月の外出も、デパート、ネイル、皮膚科、コンタクト店、免許更新の5度
つまり、春になってからの移動はそれだけということになる

1月から、地下鉄とバスには乗っていないので
きょうは大事をとって、タクシーで出かけたのだけど
走り出して2、3分で見事に車酔いしてしまった
弱っちくなりすぎていて、もう笑うしかない

これからも、当分はほとんど出歩かないだろうから
人としての強度を保つため、すこしは鍛えておかないと
散歩とちょっとした筋トレだけでは足りないかも

 

来週からは、予約制で店を再開する
一点ものも多いから、もし混んだら…と思うと
どうしても、普通には開けられなかった

きょうの21時から来週分の予約を募ったものの
ほんとうは、不安だった
誰からもメールが来ないかもしれない、
予約開始時間を指定するほどではなかったかもしれない、と思ったし
そもそも、小さな雑貨店のためにこんな手間をかけてもらうこと自体、
正直おこがましい、とも思った

けれど、21時ぴったりになると
メールボックスは、あっという間に新着メールで埋まっていった
これだけの方が、メールを事前に作っていてくれて
この時間に送るのを待っていてくれたんだ、
うちがまた開くのを、待っていてくれたんだ、と
心底驚いて、涙が出た


予約のメール、一通一通に
店の人にすぎないわたしへの、さりげない気遣いがあった
休業期間中も、たくさんの優しいコメントやメッセージ、
メールやお手紙をいただいた
そのことを、わたしはけして忘れないし、
全部をずっと、大切に仕舞っておくだろうと思う

まだ、この先は不安なことばかりで
なにより輸入業のうちの場合、店を開けても問題は解決しない
だけど、お客さんに喜んでもらえるなら、
それがわたしにとって、やりがいになる
喜んでもらえるものを、きちんとお店に出せるように
この状況でも、わたしだからできることを探したいと、思う


それにしても、希望の日時がばらけてくれていてよかったな
ほとんどの方に、希望に近い時間をお知らせできたし
1名分の空きがまだ維持できている時間も結構ある
こればかりは運だけれど、せっかく送ってくださったのに
まったく違う日や時間の案内になれば、申し訳ないもの

せめて、ひとりでも多くの方が、
都合のいい時間に来られるように、考えたい
人力なので、不具合もあるけれど、
人なりにがんばろうと思います

とはいえまずは、在庫が山のように届いている、
店を片付けなければいけないんだけどね

楽しんでもらえるように
今週は、準備だ

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。

萩原朔太郎 『旅上』

 

この詩を、こんなに反芻する五月は
これから、もう、ないだろう

目の前のことを片づける努力はしたものの、
心の一部が、どこかへ逃げてしまったようで
ほんとうには力が入らなかった
思い返せば、くるしい五月だった


再開した植物園に咲き乱れるバラに、
リージェンツ・パークの風景を重ねていた
ヨーロッパはあまりに遠く
たった一年前に見たものが、もう現実ではないようで
それを受け入れるしかないということが怖かった

昼に起こることこそ、全部夢だという気がして
毎夜、日付が変わってから、
仕事をし、本を読み、ドイツ語を勉強し、
ヘッドホンをしてひたすらに電子ピアノを弾いた
たとえ眠れなくても、暗闇のなかのそういう時間が
わたしの精神を支えてくれたように思う

まあ、まだなにも終わっていないんだけれど、
とりあえず、五月が終わる、
そのことにほっとしている

 

現地に行って仕事ができない、ということは
わたしには、自分の存在意義を吹っ飛ばす損失だ
半年先、一年先に思考が及ぶと
どうにもならなさすぎて、拒否してしまう

それでも
考えなくてはいけないと、わかっている
いつも、そうであったように、
今回だって、なんとかかんとか歩いていくしかない


わたしの五月は
この詩のようにはいかなかった
もちろん、そもそも外には出られなかったし、
気持ちも、そう

だけど、かき集めた些細な美しさを支えに
静かに、自分なりの正解を探そうとはした、
この時間はむだではなかったと信じたい
価値を求めるなんて、かえって息苦しいことだとわかっていても
自分のために、せめて、小さな納得がほしい
長く続く苦しいときは、まだこれからなのだから

Stay safe, stay strong
取引先のお姉さんと言い合った言葉を胸に、
新しい月へ行くんだ