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春のはじまりの日が
わたしの誕生日

幼稚園のとき、先生がそう言ってくれたのが
すごく、すごくうれしくて
ずっとそう思いつづけている

 

きょうは、ちょうど金曜だったので
下がらない微熱をおして、妹とおやつを食べに行った
最近気に入っている、美味しいお店

妹に奢ってもらって
ルビーは妹の誕生石なんだよなあ、と、思いながら
その名前が冠された、つやつやしたケーキを食べる
いつもと、ほとんどおんなじで、
ちょっとだけ特別な、時間


その後、仕事をしていたら
さっき別れたはずの妹が片手に姪を抱き、花束を持ってやってきて
お客さんがいらっしゃるからと、
誕生日のことには触れずにサッと渡してくれ、颯爽と去っていった

共通の好きな花屋さんまで、わざわざ買いに行って
じっくり考えて選んでくれたそう
妹らしいなあ、と、うれしかった
いつもありがとう

 

きょうは、おやつのほかは、ごく普通の仕事の日で
でも、本当にたくさんのメールやメッセージをもらった

友人がとくべつ多いわけではないわたしだけれど、
日本、世界のあちこちにいる愛する人たちが、
3月1日にはわたしのことを思い出してくれて
連絡をくれるということに、じんわりとした感動がある


わたしは、人との関係を築くことが、けして得意ではなくて
けれどすこしずつ、すこしずつ、
生きてきた年数とともに、大切な人が増えているのだな
メッセージに返信したり、チャットをしたりしながら
やっぱりこの日はちょっとだけ特別かも、と、思った

明日も来週もはちゃめちゃに忙しいものの
今日もらったものにはぜんぶ、
何日かかっても、めいっぱい心を込めてお返事するぞ
もう、なんでこの時季かなあ、確定申告、!

 

“良い年になりますようになんて言わないぞ、
必ず自力で良い年にできるはず”
そんな風に、恋人が言ってくれたけれど
彼が信じてくれている、そういうわたしでいたい、というのが
この歳の抱負です

目の前のことを、ひとつずつやって
必ず、良い年にするよ

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BTタワー
わたしが通っていた大学のすぐそばにある
まわりと馴染まない、電波塔

美しくない、と
わたしの友だちのほとんどが言っていた、このタワーを
好きだと言った人がいる
Because it reminds me I'm here.
その言葉を、ここへ来るたびに思いだす


スウェーデンの北の果て出身の、エリックとは
二年生のときの、フィンランド語クラスで知り合った
最初の授業のとき、
まだ開いていない教室のドアの前にひとり座りこんでいた彼が
ハーイ、と人なつこい笑顔を向けてくれて、
とてもほっとしたことを、いまでも、覚えている

その年のフィンランド語クラスは、五人
心根が優しく、筋の通らないことを許さない、北アイルランド出身のレベッカ
メタルバンドでギターを弾く姿が格好いい、イタリア生まれのアレッシア
13ヶ国語を操り、毎日着ぐるみ帽をかぶって大学へ来る、イギリス人のマイケル
それに、エリックとわたし
わたし達は、教室の中でも外でもとても仲がよかったけれど、
ともすればバラバラになってしまいそうな個性的なメンバーで
その関係をいつもそっと、おおらかに支えていたのは
エリックの気遣いだった


いま思えば
わたしとほとんど年齢の変わらない彼は、
どんな人生を歩んで、ロンドンにいたのだろう
ここに来る前は、ウプサラでキリスト教の勉強をしてたんだ、
奉仕活動のようなこともしてた、と言っていたけれど
彼は、そこまで宗教の力を信じているようにも見えなかった

ロシア語とフィンランド語を、勉強していた理由も
家族がそういう家族なんだよ、とだけ言って
あまり話したがらなかった
もう何年も友人で、
そして最初のあの一年間、あんなに、色んな話をしたのに
わたしはエリックの事情というものを、たいして知らない

エリックは、博愛主義者で
でも、けして、無邪気ではなかった
彼が時折見せるさみしさ、ふとした言葉の重みが
わたしはとても好きだったけれど
その裏には、いったい、どんな思いがあったのだろう


エリックとは、数えきれないほどの思い出がある
一緒に散歩をしたこと、クリスマス・マーケットに行ったこと
セムラを食べに出かけたこと、誕生日プレゼントをくれたこと
ロシア語の文法でフィンランド語を喋ってしまっていたこと
雪が降っている日、サンダルで教室に現れたこと

それでも、彼のことを思うとき
いつも浮かぶのは、透徹したまなざしと
力づよいあの言葉なのだった

いまでも、連絡をとっているのに
エリックはロンドンの人、という感じがあまりに強くて
こうして話すときに、なんとなく過去形になってしまうのも
BTタワーの印象が強すぎるからなんだろうな


そこにいる、ということ
その瞬間を、その年を、流れていく時間を
しっかり汲み取りながら、過ごすということ
その意味を、彼はわたしに教えてくれた
稀有な人、稀有な友人だと、思う

わたし達が一緒にロンドンにいたのは、たったの一年
それでも、あの年に彼と出会わなければ
きっと、今のわたしはなかったはずだ

Because it reminds me I'm here.
エリックとの時間が、わたしにくれたものを
この言葉とともに、思う

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さて、日曜日

早くから起きだし
シャワーを浴び、フラワーマーケットへ
ここで暮していた頃と、
気分がなんら変わらない

なにかと忙しい、出張中
最近は難しいことも多いけれど
日曜の朝は、なるべくこうしていられたら


マーケットに並ぶ、春らしい色の花々を見て
まだ2月なのに、と、思い
そして、今週には3月だと、気がつく

3月1日生まれのわたしは
またひとつ歳を重ねるのかと、憂うつだけれど
それでも、春を思うとき、誕生日がそこにあるというのは
けっこう、いいな

 

きのうは、一日中
ブライトンで過ごしていた

ただでさえブライトンでは、いつも忙しいのに
今回は、3時間のワークショップも入れたので
ひと息つく間もないという感じ
けれど、本当に楽しかったし、
簡単に見えることに、どれほどのことが詰まっているのかも
あらためて、知ることができた気がする


仕事で、誰か、なにかに触れるとき
生徒になる、というのは、わたしにはとても大事なことだ
選ぶという立場は、やっぱり好きではないし
敬愛を込めて、教わるという気持ちで、手を伸ばしたい
そうして触れようとしなければ、はかれない距離感、
きちんと語ることのできない凄さ、というのは
たとえ非効率的でも、たしかにあるのだった

そして、学んだことを
なるべく誤解を生みにくいように、
易しい言葉で、雰囲気で押し切らないわかりやすい言葉で
ちゃんと編みたいと思っているけれど、
それは、まだまだ修行がたりないね

 

すっかりロンドンに馴染んでいるけれど
出張も、あと中一日
つまり、明日の夜は、
また、地獄のような梱包作業が待っている

それなら、きょうのうちに
できることをやればいいようなものだけれど、
きょうはきょうで、午後は色々あったので
疲れているしなあ、と、ゴロゴロ


まあ、うん
明日は明日の風が吹く、というか
がんばれ、明日のわたし

今夜は、休んで
すこしでも、力をたくわえる

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ふたたびのイギリス
慌ただしい日々に、逆戻り

とはいえ
わたしはいつだって、慌ただしい気もするけれど

 

きのうは、午前いっぱい事務作業をして
その後、ロンドン市内で仕事
そして、きょうは一日、
ライという、小さな町で仕事だった


初めて、ライを訪れたのは
2010年7月のこと
わたしがイギリスで暮らしはじめた月

それから、大学の在学中
何度も、ほんとうに何度も来たけれど
ずっと変わらず、大好きな町
陶器とヴィンテージの町でもあるわけなので
こんな風に仕事でも来られて、幸せだ


もろもろを終え、ちょうど晴れてきた空を見上げつつ
いつものように、教会の塔へ
狭い階段を、ゆっくり、注意深く上る

ライいちばんの眺め
ここへ来ると、さみしさがすこしだけ、
剥がれて飛んでいくような気がする


最初に訪れたとき、口ずさんでいた、
耳をすませば』で雫が歌う、カントリー・ロード
きょうもやっぱり、頭のなかで繰り返し
もう、風景に組み込まれているんだろう

“ひとりぼっち おそれずに
生きようと 夢みてた
さみしさ 押しこめて
強い自分を 守っていこ”

 

きょうは、仕事のほうは
正直、収穫がいまひとつ

せっかく行ったのに、とは思うけれど
今回の出張はずっと、わりに調子がよかったし
こんな日も出てくるかと、のんびり構えるしかない

いつもの場所、いつもの人のところへ行ったとて
いつもいい出会いがあるとは限らず
けれど、いつものコースも辿らなければ、
あまりに打率が低い、というのが
この仕事の、難しく、やれやれというところです


出張は、あと中三日
明日はまた地方、あとの二日はロンドンにいる予定

なるべく、気をらくにして
きちんと目をひらいて、過ごすこと

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陽が傾きはじめ
青い青い海が
すこしずつ、その色を変える

海岸から、ほんのすこし
高いところへ、上る
ニースの街の、かたちを
静かにたしかめる


あまりに美しく、特別で
そのまま網膜にはりつけて、連れて行きたいと
願う風景というのがある

この海岸も
わたしにとって、そういうもの

 

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6年前
夕暮れ時、ここに座り込んで泣きながら
“帰らない”ということを、本気で考えた

あの頃、どれほどしんどかったのか
もう、思い出として美化されてしまって、
ぼんやりとしか記憶にないけれど

ともあれ、わたしは、
立ち上がって、帰ったのだな、と
いまさらながらに、驚く
“帰らなければ”という気持ちが勝ったというだけの話だろうけれど
それでも、ともかく、帰ったのだ


あの日のわたしにも、そしてきょうのわたしにも
あるのは、目の前の明日だけ
失うもののことばかり考えるから、忘れているけれど
きょう日常へ、帰るのも、帰らないのも
ほんとうは、自由

いつだって、選んで
そして繋がっていく

わたしが、帰ることを
これからも選びつづけるかは、わからないけれど
あの日から、“帰らない”と思ったことは
まだ、一度もない

 

コート・ダジュールのきらめく明るさを
薄く身にまとって

明日からは、きっと
もっと、つやつやした気持ちでがんばれる


無理やりスケジュールにねじ込んだ、休みだったけれど
やっぱり、ここまで来てよかったな

たった2日
それでも、旅らしい、旅だった

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土曜の夜に、ストックホルムからロンドンへ移動し
日曜、そして月曜は早朝から仕事漬け

そして、きょう
4時に起き、着の身着のまま空港へ向かって
地中海を臨むニースへ、飛んできた

さあ
ほんのわずかの、冬休み

 

ホテルに荷物を置くなり
電車に乗って、マントンへ
今回の目的は、なんといっても、レモン祭りなのだ

以前マントンを訪れたのは、6年前
同じ2月だったけれど、レモン祭りがはじまる前日だった
それで、すっかり心を残してしまって
この季節になると、マントンのことを思うようになった

ついに叶って、うれしい
一泊二日の強行軍、ほとんど執念だ

 

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レモン祭りを、誰かに説明するときに
札幌の雪まつりのレモン版、と、わたしは言ってきたけれど
実際のレモン祭りは、やっぱり、まさにそんな感じ

今年のテーマが“ファンタジー”だったからか、
雪まつりとディズニーシーを足して二で割り
全部レモンとオレンジにする、というのが
なかなか正確な表現だと思う

壮大な音楽に、思わず笑ってしまう
なるほど、たしかにファンタジー

縦に長い公園
記念撮影をする人たちを、横目に
ゆっくり、ゆっくり、散歩をした

 

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マントンで楽しみにしていたのは
レモン祭りばかりではなく、この旧市街も
以前、とても好きだと思った、坂だらけの街

ひさしぶりだし、かなり入り組んだ場所なのに
ああ、こっちに行けばこんなお家があった、などと
しっかり覚えている自分に、驚く
よほど印象に残っていたのだね

6年前
守り神のように猫が座っていた場所は
猫も、その子について教えてくれたおじいさんもいなくて
なんだか、広く感じた


建物のピンクとオレンジのグラデーションを
擦るように、海からの風が吹く

ああ、やっぱりこの街が好きだと、
ふつふつと思いがわいてくる

 

きょうは
ちょうど、好天にめぐまれた
抜けるように青い地中海を見ていると
あの水平線が、この世の果てで、
ここから見えないものはなにもない、という気がする

この街で暮らしたら
出て行く気なんて起きないんじゃないだろうか
この海を眺めているだけで
なにもかもがわかったような気にならないだろうか


そんなことを思いながら
ソーダのように泡立つ水を眺め
波の音を聴く

レモン祭りへ行くという夢は、叶えたけれど
この美しい場所に
もういちど、心を残したい

今度は、そう
きっと、あの猫とおじいさんに
また、会いに来る

 

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スウェーデンの南端、マルメから
ストックホルムへ移動したのが、水曜のはなし

3泊、中2日のストックホルム
ほとんど、仕事をしているか寝ているか
まったく上向かない体調と相談しつつ
たくさんのものを仕入れ、死ぬ気で梱包した

だけど、まあ
わたしはウーンと思うときっぱりと仕入れないので
これだけ荷物が大変だったということは、
運がよかった、ということでもある
仕事の旅としては、これでいい

なにはともあれ
デンマークスウェーデンで中4日、よくがんばりました

 

ストックホルム最後の夜だった、昨夜は
店をオープンする前からの付き合いのイラストレーターの女性が
自宅に招いてくれた

いま描いている絵本の原画や
最近の雑誌の仕事などを、つぎつぎ見せてくれる
彼女の絵は、すべて普通の画用紙に描かれているのだけれど、
原画は、印刷後のものよりもずっと立体的で
息を呑むような迫力がある

部屋の飾り棚や冷蔵庫など、あちこちに貼られた絵を眺め
うっとりとため息をつくわたしを見て、彼女が笑う
わたしにとっては全部が新鮮で美しいのよ、と真面目な顔をすると
うれしそうに目を細めてくれた


仕事の話とこれからの話をひととおり終えた頃
ベッドルームから、彼女の人見知りの猫がでてきた
呼ぶと、こちらへ来てくれて、
わたしの指先の匂いを長い時間嗅ぎ、ぺろりとなめた

挨拶できてうれしいな、
前来たときはふたりでいくら呼んでも出てきてくれなかったもの、と言うと
あなたの声と匂いに慣れたのよ、次は抱かせてくれるかも、と
友人はまた、笑った


晩ごはんを食べに行った店で、ジュースの瓶の蓋が固くて
開けてくれた店員さんが必死すぎて、笑ったこと
駅までの道で、商品の入った袋の持ち手を片方ずつにして
重いね、重いよ、どうするの、どうするんだろうね、と笑ったこと

知り合ったのは展示会でだったし、
仕事のパートナーでもあるけれど
よく笑うわたしたちは、こんな風な時間を共有して
そして、今がある


彼女の作品のことも、彼女のことも
わたしは、ほんとうに大好きで
だから、ものを作り続けてくれる限り、売り続けたい

そう、あらためて思った
やさしい夜だった