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ヒルマ・アフ・クリントのドキュメンタリー映画
日本でも公開されるのを前に、本を読み直し始めた

もう三年近く前だろうか
アーランダ空港の売店のような本屋で、ひときわ目立つこの本を見つけた
グッゲンハイムでの展示が話題だったので、名前は知っていて興味をひかれ
ほかの何冊かと一緒にレジに持っていったのだけれど
飛行機のなかですぐに夢中になった

実在した誰かの人生の物語は、
ときどき確かに、いまにも折れそうな心を支えてくれる
そのことをわたしは、この本であらためて知ったのだった

 

学生時代に、そして仕事を始めてからも、
とくに訪れることが多かったいくつかの街には
それぞれ、とくに信頼を寄せている本屋が数軒ずつある
なんでも揃う大型書店、意志ある品揃えの新刊書店、
美しい絵本の専門店、多くの選択肢を提示してくれる古書店

だけど、それだけ街なかで気に入っている本屋に足を運びながら、
わたしは駅や空港の小さな店でも、とにかくたくさんの本を買ってきた
壁の棚に、ぎゅうぎゅうに並ぶペーパーバックから
そのときの気分で、移動しながら読みたいものを選ぶ
そういう時間が、読書の幅を広げてくれていたような気がする

それに、英語を、そしてスウェーデン語やほかの言語をちゃんと学びはじめたとき
わたしがなにより叶えたいと思っていたのは、
そんな風に気楽で、自在な読書だったから


移動ができないことで、こんな損失もあるのだな、と思う
この二年とすこしの間、出会う機会があったかもしれないものを
いったいどれだけ逃してしまったのだろう

それでも、今は多くの好きな本屋にウェブショップがあって、
魅力的な新刊をSNSで紹介してくれていたりもするし
そもそも、簡単に海を越えて本を取り寄せられるのだから
失うものを、できるかぎり少なくすることもできる
そう信じて、読むことを続けるしかないのだね

 

きょうは、半日の休みだった
相変わらず、余裕がほとんどない毎日だけれど
あしたからはまた、店に立つ

この場所でできることを、せいいっぱい考えて、
とにかく、穏やかに

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散らかっているデスクを
ふとした瞬間に、美しいと思う

一世紀前のペーパークリップ、デルフトで買った花瓶
何を入れるわけでもない小物入れと、ほぼ置物のペーパーウェイト
友人が表紙を描いている手帳、何年も愛用しているペン

いつものデスクでも、たとえば旅先のテーブルなどでも、
狭い場所に、無造作にたくさんのものがひしめいているところが好きで
そのときどきで、写真に残したりもしてきた

こういうものが、自分をかたどっていると感じるからというのもあるけれど
ただ、もののある風景が好きなだけかもしれない


確定申告を仕上げて送り、やっと落ち着いたかと思いきや
ワクチン三回目の副反応で、まる二日の半ダウン

なにと闘っているのか、もはやよくわからなくなりながら
体力を使う仕事を、なんとかかんとか進めて
やれやれ、こんなことがいつまで続くのだろうと、
百万回口にした台詞でまたぼやく
まあ、でも、とにもかくにも物事が進むならいい

そう、自分を納得させることが、
結構むずかしかったりもするわけなんだけれど

 

香港出身の友人から、長いメール
彼はもうヨーロッパに住んで長いけれど
ついに、両親とお姉さん夫婦もイギリスに移住することになった、
自分もしばらく手伝いに行く、とあった
この数ヶ月で何人もの友達が、イギリスへ移ったそうだ

故郷を失うということ、そうして移動をすることの痛みを
わたしは、知らない
つとめてさらりとした文面から滲む思いを、
すこしでも掬えているのだろうか


2年で、あまりにも多くのことが変わってしまった
わたし自身も、愛する人やものを取り巻く環境も、世界も

ひとつひとつの言葉や行動の先に何があるのかと、考え込んで
口を噤んだり、ただひとりで耐えることが増えた一方で
誰をどう支えるかを、より大切に思うようになった
だけど本当に、それしかできることはないのかな


会いたいから、早くまたおいでよ、という言葉を噛みしめて
ゆっくりと、返事を書きだす

まずは手が届く範囲を守りたい
ただ、それだけ

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そろそろ、白木蓮が咲く頃かと
様子を見に行ってみると、まだ蕾

そのかわりに、梅が満開
今年は、先月が寒かったからか、
全体に、花の時期が遅くなっている気がする

暖かい風に乗る梅の香りを吸い込み
もうやってくるとは信じられない春を、思う
本当に、あと十日ほどで、桜は咲くのだろうか


確定申告の一週間
わたしの店も、いよいよ、
ひとりで経営しているとはとても思えない仕事量で
遅くまで作業をする日が続いていた

そこに、母の怪我が重なり、さらにバタバタ
得てしてこういうものだとわかってはいても、
気力と体力を捻出するのも大変だ

まさに今が、実店舗にお客さんが戻ってきてくれたときだから
しっかり休みを取れるのは、まだ当分先なんだけれど
まずは、山を越えられるだけでいい

 

帰り道、信号待ちをしていたら
前にいた自転車の男性のジャケットが目に入った

背中に “Time for us to be fearless” の文字
こういう言葉を、こんなに複雑な気持ちで見ることになるなんて、と考えて
そんな自分が、また、重たかった

心の底から穏やかな気持ちで過ごせることが、
この先ほんとうにあるんだろうかと、不安にもなる
だけど、こればかりはどうしようもない


とにかく、確定申告は昨日でだいたい片がつき、
あとは明日、最後の詰めをやって終了
今年も、なんとかかんとかよくやったよ

ちょっとだけ自分を褒めて、
明日は、美味しいものでも食べようね

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三週間も前に買った、ラナンキュラス
大きな花がとっくに終わってしまった今も、蕾がまだ開くので
短くして小さな花瓶に生けた

花は儚く、移ろうけれど
ささやかな記録は、こうして積もっていく


これを買った小さな花屋さんは、
近所だけれどこれまで知らず、初めて行ってみたところだった
優しげな花が並んでいて
店主さんは、わたしが選んだ数種類の花を包みながら、
どうすればそれぞれを元気に保つことができるか、丁寧に説明してくれた

まだ、こういう出会いがあるのだな
近くだからこそ、見えないのかもしれないけれど

 

日々、取引先の親しい人たちと、
上がっていく原価や、もう作れない商品の話をしなくてはいけない
燃料や材料の不足と価格上昇、かさむ輸送費、コロナでの休業や廃業
ニュースに胸を痛めながら、目の前のことが大変だなんて情けないけれど、
わたしたちの小さな世界も、もういっぱいいっぱいだ

どうしたら続けていけるのか、
言葉を尽くして、そして、考える
どうしてこの仕事をしているのか、ということに
いつだって立ち戻る


今週は、夜中まで仕事をする日が続いていた
夜に休めないと、日毎気持ちが削れていくので、
まずは生活を正したいとは思っているものの
これがひと段落したら、確定申告にかからなくてはいけないわけで
当分は、こんなときが続きそう

ともあれ、明日は
オーストリアの美しいリネンを包んで、ここから送りだす
ジャガード織りの、浮き上がるような模様のティータオルたち

きょうよりも寒いという予報だけれど、
とくべつ明るい色の洋服を着て、梱包をしようかな
春はもう、きっとすぐそこなのだから

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午後の時間を空けるために、朝早くから仕事
いつもとそれほど変わらない火曜

雨が降りだした帰り道、予約していたケーキを受け取る
大仰だなあ、カットケーキでもよかったかしら、と思いつつ、
端正なホールケーキを見ると、やっぱり心がはずむ

おろしたばかりのワンピースの裾を濡らすまいと
傘をさしてケーキの箱を抱え、小さくなって歩いた
憂いのある雨も、ほのかにあたたかく感じる、
春のはじまりの日


おやつの時間には、妹と姪が遊びに来てくれた
この状況なので、近くにいるのに全然会えていなかったけれど
きょうは、ちょっと特別だ

この天気で自転車に乗れず大変だっただろうに、
買いに行ってくれたらしい大きなバラの花束は
雨粒がキラキラとのっていて、美しかった

ケーキのチョコプレートを食べたいと何度も言っては、
きょうの主役はだれ?と妹に諌められている姪に
プレートを割って、すこし渡す
きっとこういう些細なやりとりを、
なつかしく、ちょっと切なく、思い出す日が来るんだろう

なんでもない、ほとんどふつうの一日
いい誕生日だった

 

一年のうち、この日ばかりは
世界じゅうに散っている友人たちから、メールが届く
知り合った場所も、いま居る場所も、そして使う言語もそれぞれだけれど
みな、よい一年になりますように、
あるいは、幸せを祈っている、と書いてくれる

もし、わたしがみなに対して願うように、
遠くにいても、どうか幸福であれ、と思ってくれるのだとしたら
それだけで、なんて幸せなことだろう


きょうの朝見た夢は
トラブルが起き困っていたら、これまでに知り合った人達が
つぎつぎ現れて助けてくれる、という
これまでに見たことのないような、都合のいいものだった

こういうことは実際には起きないのかもしれないけれど、笑
でも、多くの人のおかげで、こんな気持ちで歳を重ねられることに
本当に、本当に感謝している

 

時間が追いつけないような生き方をしている、
だから見た目も若いんだよ、と言われて
いや実際は若くないんだから労ってよ、と笑ったけれど
やっぱり本当は、年齢なんて、たいした問題ではないと思っている

誕生日は楽しむけどね
いくつになっても
きっと、そうしてやっていきたいな

よい歳だったと、振り返ることができるように
また、ただ、走るだけ

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目の前のことに集中すべく、
ぐっと力を入れて立つ、金曜日

今週もまだ、お客さんは戻らず
確定申告の準備をしながら、在庫の整理をする
まるでカラクリ屋敷のような店


昔、東京で働いていたときも
店の在庫をあらゆる場所に置いていたなあ
当時は、什器として使っている家具も商品だったので、
売れるとストックの場所がなくなり、てんやわんやだったっけ

懐かしく思い出す
右も左もわからないまま、ひたすらに働いた、
いまの基礎になった日々


仕事を終えて外に出ると、空が美しくて
日が長くなったな、またそれだけの時間が過ぎたのだな、と思って
そして、泣きたくなった

 

アンドレイ・クルコフウクライナ日記―国民的作家が綴った祖国激動の155日』を
もう何度目か、読み返している

この本は、まず個人の視点からの文章として貴重で
想像を自分の些細な印象や経験と繋げることを、本当に大事にするなら、
こういうものこそ読みたいし、多くの人に読まれてほしいと願うけれど
絶版になってしまっていて、悲しい

だけど、わたしも、クルコフがたまたま好きな作家じゃなかったら
この本を手に取ることはきっとなかったのだ


流れてくるニュースに、言葉が出ない
自分の無力さが、ただただ重い

軽々しく言葉にすべきではない、と思うこともある
それでも、こんな夜が、せめてこれ以上は続かないことを
心の底から、祈っている

 

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早朝は、マグカップに淹れたお茶を片手に
本棚の前でぼうっと過ごしたりする

壁一面の本棚の左半分は、ほとんどが北欧関連の資料で
フェロー諸島や、サーミ関連の本もある
たとえばトースハウンやヨックモックの博物館などで見つけて
担いで持ってきたものも多い

ここがやっぱり落ち着くのは
時間の詰まったこの本棚を、
自分そのもののようにも感じているからだろうか

 

きょうも、京都は雪
積もるほどではなかったけれど、仕事場は凍えるような寒さで
首を縮めて手を温めながら、デスクワークをしていた

仕事場を借りて、もうまる5年になる
1月半ばから3週間、あちこちの国の展示会やアンティークフェアをまわり
帰国したその日に、この場所の募集が出た
すぐに見に行き、そして、すぐに借りることを決めた

担当してくれた不動産屋さんは
沢山の人を見てきたけど、普通は自分に合う場所を探すのは結構大変なんだよ、
だからきみの店はきっとうまくいくよ、と言ってくれた
あれから、予測なんてできなかったことを含め、様々なことが起こったけれど
わたしはずっと、その言葉を信じている


手にしたくて、うまくいかずに、諦めてきたものも多い5年
それでも、店だけはひとときも止まらず全力で、前向きに育ててきた

きょうちょうど、いつかやってみたかったような仕事のお誘いをいただいて
こういう風に経験を重ねていけることを、本当に有難いと思った
だって、どれだけ懸命にやったって、
誰の目にも止まらないことの方が多いでしょう


5年かあ、5年ねえ
あまりにも多くのことがありすぎたから、感覚が掴めず
極端に短くも、長くも感じるな

ともあれ、節目を喜びつつ
過去と未来のために、きょうがある
そう思えるように、いつでもちゃんと頑張りたいね