背の高い木のシルエットが際立つ
雲ひとつない夕暮れ

隣を歩いていた母が
中学のとき、文集の表紙のために、
こういう冬の木の絵を描いたことがあるわ、と言った
ふと現れる、わたしがこの世にいなかった頃の母の記憶には、
物語の入り口のような引力がある


ロンドンへ越したその年の冬
ずっと、白黒フィルムでスナップ写真を撮っていた
どうしてあれほどモノクロに惹かれていたのか、
今になってみると、なんにも説明ができない

そのときに、いちばん多く撮ったのが、
まさにこういう木々だった
イギリスにしかないというわけでもない、ありふれた被写体なのに
淡い光のなかで、薄霧のなかで、
わたしは空の血管みたいな枝を撮り続けた

自分と母を、すこしだけ重ねる
記憶を持ち寄って、
並んで木を見上げる数十秒

 

きょうは月に一度通っている、編み物教室の日
先月はあまりの忙しさに休まざるをえず、
そもそもこのひと月、編む時間も気力もなさすぎたので
いま編んでいるセーターは、まったく進めることができないでいた

永遠に終わらない気がしていた裾のリブ部分をようやく終えて
何度やっても覚えられない、一目ゴム編み止めに突入
案の定、一箇所間違えたままで進んでしまい、
先生に、これは大変だからもうそのまま進んで後からなんとかしたら、と
的確なアドバイスをもらったにもかかわらず
その後結局スタバで、一時間もかけて間違えたところまで戻ることに
どうしても、このままでは仕上がりに納得がいかないだろうと思ったからで
まあ、こういうこともある

編むことそのものも、納得のいくものを作るということも
わたしにとっては癒しなんだろうな
ひと月のあいだ、その余裕が持てなくて、
ほんとうに寂しかった


今月も夜にはずっとデスクワークが入るし
このペースでは、今年はほとんど着られないかもしれないけれど
また、すこしずつ進めていくつもり

なんだか、ずっとリハビリをしているような心境でいるけれど
それはそれでいいでしょう