冬になると、きまって
雪の女王』が読みたくなる

登場人物が、それぞれの役割を果たしながら生き生きとしていて
もう大人になって随分経つというのに、時間を忘れて没頭してしまう
アンデルセンの童話のなかでも異彩を放つ、
骨のある冒険譚

主人公のゲルダを助けてくれる人物は、何人もいるけれど、
とくに山賊のむすめは魅力的だ
ゲルダをトナカイの背に乗せ、クッションまで敷いてあげて、
「まあ、どうでもいいや。」と口にするところなど
ほんとうに格好よくて惚れ惚れする
その後、彼女自身も広い世界に出ていって、
帰り途のゲルダと再会することになるのもいい


ひたむきな主人公の勇気を、物語の中心に据えながら
結局たたかう相手は雪の女王そのものではなく、
内向きな、けしてわかりやすくない強さが美しく描かれる
だから、わたしは読むたび、なんだか安心するのかもしれない

“「あなたは、じつにかしこい人です。」と、トナカイはいいました。
「あなたは、世界じゅうの風を結びあわせて、
一本の縫い糸にしてしまえるんですね。」”

 

 

どこからも冬の音楽が聴こえてくる季節
わたしのクリスマスライブラリは、この数年たいして変化しないまま、
きょうも、2009年のDiane Birchのアルバムをかけている

木曜日から自分の店のセールが始まって、
そうしたら、瞬く間に今年は暮れるんだろう
じわじわと寄せてくる焦りを押し返し
もっと大きな黒い塊がやってきて、霧のように広がっていくのをやり過ごす


日記帳の余白、
印刷されている詩の傍にペンを走らせる

するすると、自分ではない誰かが乗り移ったみたいに
珍しいほどに感情の乗った文字が生まれ、ページが埋まっていく
いまのわたしには重すぎる、と、気がついたら書いていて
ああ、ほんとうに重いのだろうな、と他人事のように思う

二週間に一篇、詩が載っているダイアリー
その頁にあった詩は、偶然にも、
去年から『瞬間』をずっと枕もとに置いている、
ヴィスワヴァ・シンボルスカのものだった


物語も詩も書けないわたしにも
いつだって、文字はやさしい

そして、いつかオルダス・ハクスリーが書いたみたいに、
もう文字には追いつけないと悟ったら
ペンを置き、音楽を連れてきて、
あとには静けさだけが残る、のだ