もはや春を超え、初夏のような空気のなか
上着を脱ぎ、日傘を閉じて、
ほとんど人のいない桜並木を歩く
静かに咲く花は、ふわふわとあまりにも儚くて
迫力にも似た切なさがある
毎年見ていても、慣れることがない存在感
桜の写真にかぎって、
そこになにも写っていないように思えてしまうのは
美しさを留めておけないという焦りもあるけれど、
そもそもわたしが、記憶を花に重ねているからなんだろう
この季節には
なにもかもが、自分とは遠いところにあるような、
自分だけが冬のなかに取り残されているような気がする
一方で、何年かをヨーロッパで過ごしてから
春に抗えずに流されていくことを、
どこかで心地よくも思うようになった
図書館に籠って文献と向き合う、長いイースター休みに
強引にきらめきを与えてくれていたこの力よ
心が軋むわたしなどお構いなしに
有無を言わさずやってくる春
同じようで毎年違う、その横顔を
なかば溺れるようになりながら、たしかめる
いつかは、もうすこし、
この季節を越えることがうまくなったりするんだろうか
記憶が一年分増えるごとに
切実さが増すのでは重すぎるから
もうすこしは、軽やかに
今週は、仕事もプライベートも
なんだかんだで予定がパンパンになっているけれど、
合間にちょこちょこと出かけて、桜との思い出を増やしたい