ひととおり、店での事務作業を終わらせて
買い物に出かける日曜日

例年より二週間ほども遅れて咲いた白木蓮が、
足早に去っていこうとしている
いつもはもうすこし遅い枝垂れ桜は、
ソメイヨシノを待たずに、もう咲きはじめていた

紙みたいに白い鳥が、
ひらひらと飛んで橋を渡っていく
未だ、春の訪れを受け止めきれないわたしのことも、
軽やかに、越えて


キャラクターグッズの店で、
妹と姪の顔を交互に思い浮かべる
イギリスにいる姪は、とっくに小学生だけれど
あしたから、日本でも一年生ということになる

なぜかおみくじがついた鉛筆キャップや、
薄紫色でちょっとキラキラしている鉛筆削り
小学生のころ、わたしはこういうものが大好きだった
きっと、姪も好きな気はするんだけれど、
でも、妹はなんて言うかしらと、むずかしい

カフェで、珍しくゆずシトラスティーを飲みながら
本から目を離し、さっきのどうしようかなあ、とふわふわ考える
こういうので日々はじゅうぶんなのだ、きっと

 

 

さて、ちょっと唐突なむかし話
ずいぶん前に、Nikon FM3Aというカメラを買ったとき
実はもうひとつ、Contax Ariaという候補があった
当時、まだぎりぎり製造していたマニュアルフォーカスのカメラは、
たしかその2機種だけだったからだ

わたしは迷った末に選んだFM3Aをほんとうに長く愛したし
信じられないくらいに数多くの写真をFM3Aと、
最初に買ったF2.8のパンケーキレンズで撮ったけれど
それでも、Ariaはいつも、心のどこかにあった
そのカメラと、F1.4という明るい標準レンズとの組み合わせには、
どうしても、ほかにはない魅力があったから


その憧れだったレンズを
実は最近、長い時を経て、使いはじめた
Ariaにではなく、ミラーレス一眼につけてだけれど
レンズのリングをくるくる回してピントを合わせ、
泣いたり笑ったりしながら練習している

留学からの帰国後、わたしはフィルムカメラはほとんど使わなくなって
そのかわりにスマホで何十万枚という写真を撮ってきた
機敏なiPhoneのカメラを愛しているし、
心持ちは何で撮ってもほぼ変わらないと思っているにもかかわらず
それでも、また、レンズのリングを回してみたくなったのだ

1975年の発売で、
いわゆる“オールドレンズ”ということになるけれど
(しかも、わたしのレンズはいちばん古い部類のものだ)
やっぱり、無二のレンズだった、と言えるくらい
たくさんの写真をこれで撮りたい
遅れてやってきた青春のような、さわやかでおっとりとした時間を
このレンズと、カメラと、一緒に過ごしたいと思っている

昔の感覚を思いだしながら、新しいことを練習するのは
まっさらの紙に向かってなにかを書き起こしているような、
さっぱりとした、予測のできない気持ちのよさがある
それを大事にしたい


限りある時間を
なるべくゆっくり歩こう

さあ、新年度!