カムデン・タウンでの仕事が、少し早く終わり
運河沿いを歩いて、カップケーキの店へ

二度目の大学生活を過ごしたロンドンは、
北を中心に、比較的広いエリアの土地勘がある
歩ける距離かどうかや、近道、バスルートだけでなく
どの道が歩いていて気持ちがいいか、
どの道、どのバスが比較的すいているか、などなど
マップではわからないたくさんの情報が頭に入っていて
それは、いつだって、わたしを助けてくれる

世界が大きく変わっても、
そういうちょっとしたことは、案外変わらないものだ
わたしにとってのロンドン


その後、夕方は
学生時代からお世話になっているディーラーご夫妻の店を訪れた
顔を見るなり抱きしめてくれるお母さんと、
今回はロンドンの前にどこへ行ってきたの?写真を見せてよ、と
うきうきわたしのスマホを覗き込むお父さん
ずっと慕っているふたりだ

サン・セバスティアンへ行ってきたよ、と言うと
ええ!?わたしたち、サン・セバスティアンで結婚式をしたのよ、と
お母さんが驚くのでこちらも驚いた
彼女が北スペインの出身とは何度も聞いたことがあったけれど、
まさにあの町のあたりだということは知らなかった

いちばん古い教会で式を挙げて
町を見下ろすレストランでパーティーをしたよ、
いい思い出ばかりなんだ、とお父さんが目を細めて言う
わたしと出会う前のふたりの話は、美しい物語みたいで
もっと話して、とせがんだ


お母さんはいつも、わたしのリクエストに応えて
めったに開けないという箱や引き出しから、商品を出してくれる
お父さんはそのたび、神妙な面持ちで、
本当に、彼女がこういうことをするのはきみだけなんだよ、と言う

ただの買い付けに収まらない、あたたかい時間
こういうひとときが、この町を、この仕事を
より特別なものにしてくれているのだった

 

連日誰かのもとを訪ねては、
つぎの発注の話をしたり、古いものを買い付けたり
これぞ出張という毎日を、
イギリスに移動してきてからは送っている

今回は、とくにヴィンテージのジュエリーが、
これはというものが次々出てきていて、幸運
買い付けというのは、だめなときは
納得がいくものを揃えるのに本当に苦労するので、
こんな風に、ものの方からやってきてくれるようなことがあると
すっかりうれしくなってしまう


お客さんの好みのものを買えているかは、わからないけれど
わたしがすばらしいものだとわかっていて、言葉を尽くせば、
目を向けてくれる人たちが現れると信じている
楽観的すぎるかもしれないけれど、
そうやって、できるかぎり、愚直でいられればいい

明日もヴィンテージの日
きょうはゆっくり目を休めて
早朝から、また、出かけていく