朝8時、降り立ったストックホルムは、
マイナス15度という気温

機内持ち込みにしていたリュックから
防寒着をつぎつぎ出して、重ねる
これくらい寒いところをまとまった時間歩くのは、
さすがに結構ひさしぶりだ


大きなスーツケースを二つ引いていると
ミトンでは歯が立たず、あっという間に指先の感覚がなくなった
まだチェックインの時間になっていないホテルに荷物を預け、
青空の下、まず手袋を探しに

アウトドアブランドの店に入ると、
ちょうど手袋がセールになっていた
とくに暖かそうなものを店員さんと相談して選び、
買ってすぐにタグを切ってもらう

出張のはじまり
想定以上の寒さは、もちろん困るんだけれど
こういうイレギュラーな買い物は、なぜか少しうれしい

 

 

関空からヘルシンキまで、まず13時間
飛行機はロシアを避け、以前より3時間以上も長い時間をかけて
北極海の上を飛ぶ

小さなパネルの、見慣れない地図
グリーンランドを右手に見ながら、
地球は、その名前の通り球体なのだな、とぼんやり思う


感染症だけが問題だったころは、
人が人の手でもっと世界を変えてしまうことを想像しなかった
こんなに狭い球体のうえで、
いちどきりの人生同士が駒みたいにぶつかり合って散るなんて
あまりにも残酷で馬鹿げている

わたしが仕事でお客さんと共有したいものも
自分の人生で大切にしていたいことも
ただただ小さすぎて、途方に暮れて泣きたくなる
いったい、こんなこと、なんになるって言うんだろう
本当はわたしこそ、馬鹿げているのかもしれない


それでも、わたしは
美しいものを作る人を探しにここに来ている
そして、人より長い時間を超えてきたものを探しに

絶望的な無力感を連れたまま
祈るような気持ちで、新しい出会いを望む
小さなわたしなりの仕事を
やり切って帰りたいと、思っている