週はじめのストックホルム
超のつくレベル、と言ってもいい快晴

それなのに終わらないデスクワークにため息をつき、
ホテルの窓から、建物の狭間の細長い空を見上げる
ふと、自分のため息があまりにも、
絵に描いたみたいだったことに気づいて笑ってしまう

出張は発注や店舗のことなど、後半は仕事が増えるので
これはほんとうによくあることなのだけれど、
なにもこんな晴れの日に当たらなくても、ねえ


とはいえ、きょうは
新しい取引先がひとつ、決まった日だった
前々からものが気になっていた会社と縁があった、という感じで
あっという間に話がまとまり、初回オーダー

実は、彼らの真鍮製の花のお皿を長く備品として使っていて
しょっちゅう、販売はしていないのかと尋ねられていた
だからというわけではないけれど、
うちのお客さんには、彼らのものが好きな人がきっといてくれるはずだ

商品を見て、これはもううちじゃなくてもできる仕事でもいい、
まずはお願いしてみようと即決したので
メールを送ったあとで、そういえば通貨がポンドじゃなくユーロだ、
どこの国の会社だったっけ、とあらためて情報を見直すことになった
見切り発車もいいところで笑ってしまうのだけど、
それだけ気持ちに勢いがあるのだなと思う

はじめてのオランダの取引先
これからが、楽しみ


スウェーデンでは、大きくではないけれど、
着実にいい仕入れができているし、新しい出会いもあった
イギリス、デンマークでの分と合わせて、
これ以上望みようもないくらいだ

すこし間が空いても、なんでもないと思えたことが
実は、なによりの収穫じゃないかしら
わたし自身の持ちものは、簡単に崩れ去ったりしない
そういう気持ちになれたことが、なによりよかった

まあまあ、青空の日になかなか外に出られなかったりしても
これだけ大充実の出張になれば、それで

 

夕方、仕事先からの帰り道
古本屋の店先に、セール、1冊40クローナという紙が貼られていた
40といえば500円ちょっとなので、驚いてそのまま店に吸い込まれる
結局3冊を抱え、ホテルへの道を歩いた

昔、ストックホルムにまとまった期間滞在していたとき
その店で本を買ったことがある
ストックホルムの歴史の本と、カール・ラーションの自伝
そのときは、おばあちゃんが店番をしていて、
別の、店員さんではないおばあちゃんがなぜかレジ横の肘掛け椅子に座り
横からすべてのお客さんの買い物に茶々を入れていた

きょうのレジには、ふたりのおばあちゃんは居らず
きのうのことのようなあの記憶を、夢のようにも感じた
どこにも、どうしてセールをしているのかは書いていなくて
もしかしたら店がなくなってしまうのかもと気になったものの
そうだと言われるのが怖くて、訊くことができなかった


あの頃は、移転セールをやっていたほかの古本屋でも
山のように本を買い込み、毎日浸かるようにして読み耽っていた
気持ちとしては崖っぷちだったのだけれど、
あの日々は、今の胆力の基礎を作ってくれたようにも思う

そんなことを思い出していたら、
店のラジオから、Englishman in New York
当時カフェで聴いて、異国から来た自分を思った曲だ

I'm an alien, I'm a legal alien
今だって、わたしは、たいして変わっていない

 

 

ほんとうはいつだって不安だ
自分の仕事を誰にも求めてもらえなくなったら、
そして、自分が自分でなくなったら、と

だけど、だからこそ、
雲梯みたいに、自分の体のひとつ先を勢いをつけて掴めるように
わたしなりの経験を積んでいく
学生だった頃からずっとそんな感覚で、いつまで続くのかと思うけれど
とりあえず、行けるところまで


この出張も明日が最終日
最後まで晴れ渡るみたいだし、
明日はちょっと、自分のためにも時間を使おう

そう、なにより
3年半ぶりのスウェーデンなのだから