新しく借りた、小さな事務所の鍵を受け取り
茶店でホットケーキを食べて
自分の店を開ける時間まで、桜並木を歩く

6年目も終盤にして、ちょっとした変化
大学を卒業するともう“門出”はないと思っていたけれど
こういうささやかな船出は、わたしにもある


店の鍵を受け取った、6年前の日も
すがすがしい晴れだったことを、覚えている

思わず、それからの日々を振り返ろうとして
いやいや、そんなに単純なことじゃないでしょう、と
かき消し、ただ青空に揺れる枝垂れ桜を見上げた

 

さて、それはそれとして、
週明けには出張へ行かなくてはいけない
色々どうしようもなかったというのはそうなんだけれど、
このスケジュールを決めた昨年末のわたしは、なかなか鬼畜だ

なんとか今週の営業は終えたものの
店の締め作業、店の片付け、自宅の片付け、そしてパッキング
その全部が途中なので、どうしよう、というか
見通しすら立たず、実感がまったく湧いてこない

だけど、まあ、留学時代からつねにこんな感じでも
終わらなかったことは、いちおう一度もない
無理をすればぎりぎりなんとかなるという予定を組むことにかけては
悲しいかな、わたしはとにかく天才的なのだった


とにかく、なるべく頭のなかをシンプルに
行ってからの予定は、だいたい整っているから
準備を終わらせて、そして、行く

いまのわたしに必要なのは、
必要でないことをいったん忘れる余裕だ

 

『MONKEY』の最新号に
レイモンド・チャンドラーの説く秘書の心得』という
チャンドラーがかつて秘書のフアニータ・メシックに向けて書いた、
要望というか、いわば注意書きのようなものが載っていた

訳者の村上春樹も、そこに書いていたように
わたしも秘書の方にちょっと同情してしまうのだけれど、笑
それでも、チャンドラーのあたたかいまなざしと
仕事への真摯な姿勢が感じられる文章だったし
わたし自身が普段考えていることにも、近かった

 


エマーソンがどこかで言っていました。「それがどんなことであれ、人が何かを適当にごまかし通すことなんてできない。適当にごまかし通すことができなかったと当人に指摘するには上品すぎる人たちがいるだけだ」と。


出張中も、もちろん、いつだって
この言葉を胸に、
わたしなりの仕事をしようと思うよ