デスクワークをひと段落させて、
店の近くの花屋さんに立ち寄る

隅っこにフリージアが三本
お値段を訊くと、もう葉っぱもなくなってしまっているので
一本五十円でいいという

なんだか申し訳なくなりながらも、三本とも連れ帰り
気に入りの花器に飾って、ビューローへ
花は、いつでも美しく、
灰色に沈んだ気持ちを、ほんのり照らしてくれる

なんの心得もないわたしでも、
好きな花と、そして花器と、呼吸をととのえて暮らせたらいい


毎年言っている気がするけれど、
フリージアの花を部屋に飾るたび、ある友だちのことを思い出す
単純に、彼女の名前がFeliciaで、
スウェーデン語ではひとつ目のiを長く、フェリーシア、と発音するので
フリージアと似た響きになるからだ

森のなかの工芸学校で一緒だった、
可憐な花のイメージと重なる、やさしい人
休憩時間にはずっと、ふわふわの毛糸で自分のためのセーターを編んでいた
それ、休憩になるの、と訊くと、やわらかく微笑んで
自分でも不思議だけれど、糸を触っていると落ち着くの、と答えてくれた

冬のサンルームの淡い光のなかで、静かに編み針を動かす彼女と
出来上がった、彼女にとてもよく似合うダスティピンクのセーターは
わたしの、幸福な記憶のひとつ

こんなに彼女の気持ちがわかるようになるなんて、
あのときは思わなかったな

 

きのうで、今月の実店舗の営業は終了
オンラインショップと、まだ終わっていない棚卸があるので、
実際に何日休めるかはわからないものの
来週は、店舗を閉め、とにもかくにも冬休みだ

旅は、そのうち三日間なので
せっかくだからほかになにかやりたいことはないか、と考えたのだけど
やっぱり、好きなだけ本を読み、編み物がしたい
毎夜読んでいるし編んでいるのに、と自分でも思うものの
まあ、そういうことではないのだった

ちょうど発売になる単行本を二冊、予約し
編んでいるセーターのための糸を、もう一かせ巻いておく

なにがわたしにとっての幸せなのか、わからないまま
だけど、一文一文、一目一目に集中して過ごす時間を、なにより欲しているなら
いまは、きっと、これでいい