2年7ヶ月ぶり、2週間の
ロンドン滞在が終わろうとしている

本当に、なにから話したらいいのかわからない
あまりにも多くのことが起こり、
あまりにも多くのことが変わったのを見た

変わらない街並みが迎えてくれた一方で
たくさんの愛する場所を失っていたことを知った
一見以前と変わらず歩く人びとに安堵もしたけれど、
親しい人たちのけして明るくない言葉は、あまりにも重かった


打ちひしがれていた中で、
クイーンが亡くなられたというニュースが入った
わたしが扱う“ヴィンテージ”の大多数が作られた長い長い時間、
ずっと王位にあったエリザベス女王
わたしのまわりには、王室はべつになくてもいいんじゃない、という人も多いけれど
そんな友人たちにも、彼女は
ひとりの女性として尊敬されていたように思う

BBC Oneでは、ずっと特番をやっていた
わたしたちは、時代が変わるとき、
過去と未来の狭間にいます、というキャスターの言葉を
まだ信じられずに、ぼんやりと聞いた

わたしがこの国の住人ではなくなったのは、2015年
だけど、国民投票EUの離脱が決まったときも、
そして本当に離脱した日も、偶然ロンドンにいた
なにかが大きく変わる日を見届ける、
そういう巡り合わせなのかもしれない


わたしは、いったんお別れをしに来たのだ、と思う
これからどれだけのものが、元のように戻るのか、
もう戻らないのか、まだわからないけれど
すくなくとも、愛していたたくさんのものが
すでに存在していないことを、確かめるための時間

未来との境界で
まだ迷子のように途方に暮れている
だけど、店と、自分の気持ちを守るにはどうしたらいいか
これでやっと、考えることができるのかもしれないね

 

と、切ないことばかり書いてしまったけれど
ひさしぶりに会えた人たちから、ちゃんと心ひかれるものを買うこともできた、
いい出張でもあったかな

ずっとかわいがってくれているご夫婦と、
一世紀以上前のものがあふれる店先でお茶を沸かして飲んだり
気難しい(でもやさしい)人の気難しい(だけど面白い)話を楽しく聞きながら、
次々出してくれるイヤリングやブローチを物色したり
そういう愛しい時間が、変わらずここにはあった
そのことを忘れずにいたい

 

 

暑い暑いと聞いていたイギリス
いざ来てみると、例年とそれほど変わらない気温で、
展示会で着ようと、長袖シャツを一枚買い足した

レジで店員さんに、仕事用かと訊かれたので
そう、ジャケットと合わせようと思って、と答えると
そうだと思った、この秋の仕事にと買っていく人が多いのよ、と微笑んでくれた

3年間来られなかったその店のデータベースには、
まだわたしの名前が残っていた
もう秋だね、今年こそいい秋になるといいね、と
言い合って、店を出た


ここで得た感覚を、持ち帰る
まだまだ大変なことが待ち受けていると思うと、苦しくもなるけれど
胸を張って、仕事をしたい

いい秋、
そして冬になりますように