f:id:lumi31:20210717013918j:plain

 

石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』
ルシア・ベルリンを目当てに買った6月号の「群像」で
夢中になって読んだ作品

その後、芥川賞の候補作になっていたことを知らず(!)
受賞のニュースを聞いて、今月単行本になっていたことを知った


細かく書き込み線を重ねたデッサンのようで、
それも、何枚もの層がある
一枚の絵として、崩れずに成り立っているのは
最初から最後まで、描いて描いて描きつづけることを恐れず、
それでいて、一貫して理性的だからだという気がする

何度も繰り返し、しっかり噛んで、
それでもいつまでも味がする
そういう文章、小説だと、思う


ある大きな出来事、大きな哀しみとの距離感、
あるいはもっと単純に、進んでいく時間との、
そして、自分ではない人間との距離感について
10年前、そして今のことを思い、自分に問いかける

この小説が、わたしにもたらしてくれた、
そういう時間とともに、手もとに残しておきたかった
美しい本になって嬉しいな

 

いっときは、読む量を減らさざるをえなかったけれど
今はまた、4、5冊ほどをすこしずつ、同時進行で読む生活に戻っている
あまりに長いこと、こうしてやっているので、
散漫でよくないとは思いつつ、減らすと調子が崩れるのだった

今週は、すでに4冊あった読み途中の山に
『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』を追加した
ゆっくり楽しもうと思っていたのに、
すばらしくて、あっという間に三分の二ほども読んでしまった


早朝の光や深夜の暗がりのなかにある部屋で
大切すぎてツイッターには登場させられないカフェで
わたしは、情報の渦まく場所を離れ、
いつも幾重にも鳴り響いている頭のなかの声の手綱を、なんとか取りながら
静かに本を読んでいる

母に「読まないと死んでしまうので」と言ったら
「そういう生き物なのね」という言葉が返ってきた
よくわかっていらっしゃる

これがいいのかわるいのか、正直わからないけれど
そういう問題じゃないのだ、きっと