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風の強い日

落ちてしまっていた、枝垂れ桜の花を
そっと手に包んで持ち帰る

器に水を張り、一輪一輪、
花束のように浮かべて、部屋の机へ

ささやかな春
ちいさな旅のようでも、ある


ヴィンテージの青いガラスの器は
たしか、ずいぶん前にニューヨークで買ったものだ

8日間で、11の美術館を訪れた
7月の頭で、気温が35度近くある中、
通りの数を数えながら、何時間でも歩いた
焼き付けられたような、強い記憶

窓が開かず、換気扇もロクにない
むっとした安ホテルの部屋
レム・コールハースの本から目を離して
ぼんやりと眺めた、夕暮れの高層ビル群
インディペンデンス・デイの花火の帰りに
ひとり道端で食べた、チョコミントのアイスクリーム

いまのニューヨークの惨状を、目にするたび
そういうすべてを思い出して、苦しい
願う以外になにもできないことが、
切なく、悲しく、やるせない

こんなことがあるなんて、と
この数週間で、いったい何度呟いただろう

 

きょうは、高校時代からの友だちが、
以前買ってくれた一輪挿しの写真とメッセージを送ってくれた
教師の彼女こそ、いまとても大変なのに
気遣って励ましてくれた気持ちが、なにより有り難かった

誰かに声をかける、というのは
実はとてもハードルの高いことじゃないかと思う
そもそも、相手のことを考えて、
ひとりよがりにならない言葉を丁寧に編むことは
とくにこういう時には、簡単ではない

だからこそ
ガラケーで慣れない写真を撮って送ってくれたことも
引け目を感じる必要なんかない、と言ってもらったことも
本当に、光のように感じたんだ


昨日も、ぽつりぽつりといらっしゃるお客さんから
そっと仕舞っておきたいような言葉を、沢山いただいた

好きなものでまわりを固めたくて来た、と
口にしてもらえると、ほっとする
不要不急という概念に苛まれて、
日々迷いながら過ごしているわたしでも
すこしは、誰かの役に立てているかもしれないと思えるから


こんなときだから
あたたかさに、触れる
なにもかもを美談にするつもりはないけれど
わたしにも、いまだから気遣いたい人たちがいる

悲しいときは、悲しいと言いながらも
大事にしたいことを、ちゃんと優先させたいな

どうか、ほんのすこしでも
やさしい明日が、あるように