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北からの通勤の人たちがほとんど降り
ガラガラになった電車で、南へ

青空のBlackfriars駅は
いつにも増して、ポストカードのようだ


郊外で、乗り継ぎのためいったん降りる
気温は4度、ホームで白い息を吐きながら待つも
来るはずの電車が、来ない

掲示板には、ただ“Delayed”と出て
30分経ったころには、その表示すら消えてしまった
しびれを切らして、チケットを払い戻そうと窓口に行くと
15分後にはたぶん来るからホームに戻れ、と言われる

意気込んで出発したのに
まあ、なんともこの国らしい
出張のスタート

 

やっと走りだした電車の車窓からは
冬のロンドンの、斜めの淡い光

イヤホンから流れてきた、初めて聴く曲の詞に
心をさらわれる

We could make a paper plane
And fly it all around
It doesn't matter what it looks like
As long as it can leave the ground
Imaginations going wild
The things that we could make
But let's start with a paper plane


ロンドンに越してきた年の冬
授業中、隣に座っていた子にせがまれて、
開けた窓からの風で飛んできたプリントで
紙飛行機を折ったことがあった

皆が黙り、折っているわたしの手元に注目して、
するどく飛んだ飛行機に歓声をあげた
先生は、言わなくちゃいけないな、授業中だよ、と笑って
わたしも、ごめんなさい、と謝りながら笑った


ほとんど全部の授業に
ほとんど同じメンバーが座っていた年
小さなことも、大きなことも、皆で話し合った
皆がそうだったかはわからないけれど、
すくなくともわたしは、目の前のことに夢中だった

あのとき、隣で誰よりも笑っていた子は
その年進級ができずに大学を辞め
お母さんが住むパリに行ってしまった
いつも愉しげに名前を呼んでくれた彼女の不在に、
わたしは結局、卒業まで慣れなかった

それでも、たとえばプリントの紙飛行機みたいなことに
皆で一々笑い、言葉を交わしあって過ごした年が
わたし達には、たしかにあった
そして、そういうひとかたまりの時間というのは
わたしにとっては、ただ遠ざかっていくばかりのものでもない

 

年に3、4回訪れているロンドンは、
わたしにとって、“いま”の街だけれど
それ以上の親しみを、いつも感じているのは
力づよい過去が寄り添っていてくれるからだ

目の前のことを
そして、いつかはできるようになりたいことを
ひとりで、ときどき誰かと一緒に、大切にしていた
いまに繋がる日々を
変わらない朝の光のなかで、思った