突然だけれど
いま、自分の店のあり方、というのを考えるとき
浮かぶのは、去年の引っ越しのことだったりする


やむにやまれぬ事情で
一人暮らしをしていたマンションから、実家の8畳間に移った
親にも、ものが多すぎる、置く場所がないと言われ
どうしようもなくって、たくさんのものを処分した

だけど、これを書いているだけで涙が出てくるくらい
わたしには傷が残ってしまった
あれもこれも捨てるんじゃなかったと、
今でも夢にまで出てくるくらいに、思っている


ものをあまり持たない、ミニマルな暮らし、というのを
わたしはもちろん否定しないし、寧ろ、とても格好いいと思う
けれど、それと自分の生活は、
まったく違うところにあるのだと、思い知った

たとえばときめきで残すものを判断するというのなら
わたしはときめかないものなんて、本当にひとつも持っていない
処分したものを手放した理由は、
たいてい「持っていても使わない」だったけれど
それでも、大切に思っていないものなんて
本当に、なにひとつ、なかったのだった


持っているものの数だけにとらわれず
大切にならないものを自分は買わないはずだ、と
ちゃんと信じるべきだった
そして、大切にしているものを捨てることに
鈍感になるべきではなかった、と、思う

そういう
苦い、苦い経験

 

そんなことがあってから
わたしの、そういう、ものに対する感覚を
どう店に反映させるかを、しょっちゅう考える

現行のデザイナーのものは、全部大事に長く続けたいから
より慎重に、取引をはじめるかを考えるようになり
逆に、ヴィンテージの買い付けでは
これはいいと思ったら、売れないかもなどと考えず
荷物や店の在庫が増えることも厭わず、逃さず買うようになった

ここには適当に選んだものなんてひとつもありません、
例外なく120%の気持ちで選んだものです、という重たさは
お客さんにとっては余計なのではと、ずっと思っていた
だけど、個人でやっている小さな店で、
けして一点一点の価格が安いものでもないのに
店主自身の気持ちに隙があるものなんて、誰が欲しがるだろう、と
もう、完全に開き直れた気がする


そして、そういうものを、沢山、
なるべく沢山並べたい、とも思うようになった

もともとうちの店は、面積に対して点数が多すぎるし
ひとつひとつのものの美しさをちゃんと引き出すには
もっと空間に余白があったほうがいいに決まっていて、
それで頭を抱えて悩むこともあるけれど
まずは、お客さんに、沢山のものを見てもらいたい

店主であるわたしには好きなものが沢山あるし、
当然世の中には、美しいものが、沢山沢山あるのだ

“こういう店をやる人は、
オタクでなくちゃ意味がない!”
去年取材に来てくださった方の、最高の褒め言葉を
いま、あらためて、ありがたく噛みしめる


多くものを持つから、扱うからといって
気持ちが薄まるわけじゃない
こういう、ミニマルな生活に背を向けた所有観や店のあり方には
魅力を感じないという方も、勿論多いのだろうけれど

それでも
わたしはこうです、と、断固言えるようになったというのが
昨年失ったもののかわりに、得たもの
あまりにも大きすぎる代償だったけれど、
ものを扱う仕事をする以上、忘れずにいたいことができた

 

そういう自分の心根を
ちゃんと信用する、ということ

飛行機の中で、携帯の小さな画面に書いていて
なんだかバラバラな文章になってしまったけれど
いま、残しておきたい気持ちです


さてさて
これからヘルシンキ、そしてコペンハーゲン
明日は、朝からさっそく仕事だ

15日間の出張
また、いつも以上にものに向き合う日々が、はじまる