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月が出る
鐘は消える
通れない小路
あらわれ

月が出る
陸にかぶさる海
はてしのないところで
心臓は孤島の感じ

満月の下
オレンジを食べる者いない
みどり色の氷のような
果物を食べる

どれも同じ百の顔
月が出る
ポケットの中で
しのび泣く銀貨

長谷川四郎訳『ロルカ詩集』所収「月の出」

 

もう、ひと月以上も
ずっと熱が下がらない

先週、すこしはマシになったと思っていたら
また一昨日から、37度台後半
ほかの症状はなく、血液検査も異常はないのに
ずっと重りをつけて歩いているような感じだ

月曜から出張なのに
どうしたらいいかわからず、困惑
ほんとうに、それ以外の単語が思いつかないくらい
ただただ、困惑している


そんな中
病院の帰りに古本屋で、ロルカの詩集に出会った

フェデリーコ・ガルシア・ロルカ
名前は見たことがあったけれど、
ちゃんと読むのは、初めてだった

大好きなアンダルシアの景色、言葉、植物や風を
思いだすというのも、もちろんあるけれど
心が強く引き寄せられたのは、もっと
普遍的なかなしさや孤独、希望、うつくしさ

出会うべくして出会った、
そう、思った

 

さすがに、気持ちが弱っていて
なにかに触れると、表面が、たよりなく揺れてしまう

ただ、いつもよりすこし繊細に
ものごとを捉えられるという気も、する


なにが良いことなのかは
もう、とうにわからないけれど

ロルカの歌う、静寂と明るさは
どちらも、いまのわたしが
必要としているものかもしれない

 

昼過ぎが言う──影を飲みたい!
月は言う──飲みたいのは星の輝き
澄みきった泉は唇をもとめ
風がもとめるのはため息

匂い 笑い 新しい歌
これがぼくの飲みたいものだ
月だとかユリの花だとか
死んだ愛などから自由な歌だ

あすともなれば一つの歌が
未来の静かな水面をゆさぶり
そのさざ波とぬかるみを
希望でふくらますだろう

光り輝いておちついて
思想に満ちた一つの歌
悲しみや苦しみやまぼろし
まだよごれていない一つの歌

抒情的な肉体なしに
笑い声で静寂を満たす歌だ
(未知のものへと放たれた
めくらのハトの一群だ)

もろもろの物 もろもろの風
その中心にせまる歌だ
とこしえの心の喜びに
最後にはやすらう歌だ

長谷川四郎訳『ロルカ詩集』所収「新しい歌」