はじめてのベトナム
ホーチミンへ、飛んできた

仕事がまったく関係ない、という旅は
いったい、いつ以来だろう



観光名所を訪れてみたり
市場で布を探したりしながら
雑然とした街を、ぶらつく

道端のバイクや、低いプラスチックの椅子に腰かけたまま
スマホをいじったり、煙草をふかしたり、
なにかを食べたり、だれかと話したり

この街で暮らす人たちの、日常のそばを
わたしは通り過ぎるだけだけれど
旅人でいる、というのは、それだけでいいものだ


うす暗いカフェで
甘すぎるミルクコーヒーとカップケーキ
外をひっきりなしに通るバイクの音と、クラクション、
遠くのお客さんの話す、ベトナム語を聴いていたら
なぜだか、ふと、涙が出た

自分の小さな店を
なんとか立ち行かせるので、日々、精一杯で
それに、引っ越しなど家のことが重なり、
最近は、地に足がついていないとまでは言わないけれど
どこかフワフワしているようなところがあった
わたしがエンジンをかけなければ、進まないことが多すぎて
とにかく、気をぬくひまがなく、
自分が、自分ではない次元を生きているような
落ち着かない感覚だった

日常から完全に離れた、喧騒のなかで
きょうのわたしは、ぽつんと、ひとりで
けれど、ぜんぜん寂しくはなく、ふんわりと幸福だった
もちろん、帰る場所があるからこそだけれど
わたしはこういう、
身勝手で無責任な、ゆるやかな孤独が好きなのだ

遠く離れた、自分の日々を振り返り
わたしは、わたしの手が届くことをやっているのだなと
あたりまえのことを、思った




カフェを出ると
ざあっと、生ぬるい風
嵐が来そう、と思った瞬間、
雷も鳴りはじめた

バイクの群れをかわしながら
街の中心部へ、戻る
急いでいるはずが、ときどき寄り道
こういうのも悪くない

たった2日のホーチミン
なるべく慌ただしくならないようにしながら
なにもかもを楽しめたら、いい