陽の落ちた、見慣れた道
煌びやかなツリーが飾られた、ショーウィンドウ

イヤホンから流れていた、マルーン5の新譜を
ジョン・メイヤーのいつかのアルバムに、変える
きのう読んだ本に出てきた、
ジョン・メイヤーのライブTシャツの、生き霊

ふわふわとした、乗り物酔いのような感覚を
一歩、二歩、三歩、進んで、確かめる
多少具合が悪くても、ちゃんと、歩いていけるのだった



きのう、読んだのは
アメリア・グレイのAM/PMという掌篇集
カレン・ラッセルを訳している、松田青子さんの名前に惹かれて
数日前、なんとなく買ったものだったけれど
最後のページを読み終わった瞬間、また最初から読み始め
二度目を終え、もういちど、最初から読んだ
それくらいの衝撃だった

掌篇集といっても、1篇1篇は短くて
なかには、断片のようなものもある
その120の物語が、ゆるく繋がりながら、
存在する時間から存在しない時間へ、進んでいく

この本が、わたしにとって、衝撃だったのは
なにより、アメリア・グレイの視線、あるいは温度が
わたしにとって理想的だったからだ


AM:63
オリヴィアは階段の一番上の手すりにバターナイフが載っているのを見つける。それが愛する人たちに突き刺さる様を彼女は心ゆくまで想像する。
バターナイフは部屋全体を危険に感じさせた。侵入者が階段を上り、バターナイフに手を触れた瞬間、オリヴィアを刺したくなってもおかしくない。オリヴィアはバターナイフを回収し、流し台に置くまで落ち着かない。それがあるべきところに。

人生はいいことばかりじゃない、
人生を、けして、いいものと呼べない
だから、シーンに切り込みを入れる大胆さと
ナンセンスを真剣に検分する繊細さと
その全部をユーモアに変える軽やかさが要る

ちいさな不協和音たちのなかで、鋭くあること
わたしは、たぶん、
自分の日常に近い小説やドラマで、共感を覚えるのではなく
こういう作品に、共感したかったのだと思う


絶望も、希望も
さみしさも、可笑しみも
些細な一瞬一瞬に、宿るのだと
あらためて、思い出させてくれる本

いつでも、ふと開けるようにと
ソファからすぐに手が届く棚に、置いた


AM:107
ある日、人々は考えすぎるのをやめた。私たちは適度に考えるようになり、必要以上には考えなくなった。いかなることでも、誤解は生じなくなった。ささいな不一致は忘れられ、より大きな事態を引き起こすこともなかった。会話や意見の取るに足らない間違いは、朝食のメニューに載っている品目と同じくらいの重要度となった。あなたはワッフル、私は卵、そしてそれは間違いなく奇跡だった。

AM/PM

AM/PM