蔵書票のためのはんこをオーダーしたのは
ちょうど、二年前


その頃、わたしが滞在していたのは、ストックホルム
イギリスの大学を、一年休学して訪れた町で
わたしは自分の論文、勉強、もっと言えば自分自身の有り様に
不安ばかりを覚えて、すり減っていた

そんなとき、アパートの近くの大きな古本屋さんが
移転にあたって、セールをはじめた
最初は、店内の本すべてが一冊30クローナ
しばらくして、10クローナになった
スウェーデンの文学の本も、教会や民俗についての本も
高価で見ているしかなかった、100年も前の貴重な本も、
全部、日本円にして150円ほどになったのだ

山のような本を、抱えて帰っては
毎日のように、夜更けまで読んだ
それまで勉強してきたスウェーデン語が
役に立っているという実感が、嬉しくて
なにより、ものごとを知るということに、
新鮮な気持ちで向きあえていることが、幸せだった

そのときは、まったく気がついていなかったけれど
振り返ると、あの時間で得た感覚がなければ、
わたしは今のようには、勉強を続けられなかっただろう
つまり、ほかでもない、古書に救われたということ


さてさて、前置きがとても長くなったけれど
そのとき手に入れた、たくさんの本のなかに
何冊か、蔵書票のついているものがあった
ほとんどが、1910年頃のもので
美しいリトグラフと名前が、印刷されていた

わたしも、こうして愛した本には、
蔵書票をつけて、大切に置いておきたい
そう思って、インターネットで探し出したのが
コシェルスカさんだった


そして、出来上がったのは
北欧らしいトナカイ、星、オーロラ、
それから植物をあしらった、蔵書票
デザイン自体がすばらしいことは、もちろん
わたしという人物を、正方形のなかに織ってくれたようで
その心づかいが、ありがたい
コシェルスカさんに出会えて、よかったな

注文してから届くまでの、二年のあいだに
わたしは大学を卒業して、スウェーデンの森で暮らし
そして、日本に帰ってきた
うつくしい印影を、しみじみと眺めながら
二年前のこと、そしてこの二年のことを、
まるで夢のように、思いだす


迷いの多い日々のなかで、わたしを鼓舞してくれたのは
やっぱり、本だったから

これから、一冊一冊、この蔵書票を貼りながら
過去を、思って
そして、また、気持ちを新たにできたらいい