ロンドンに、ほとんどすべての荷物を置いて
身軽に飛んできた、ポルト
雨季とは思えない、青空


空港からその足で、とっておきの場所へ
オレンジの、連なる屋根と
その向こうを流れる川を、眺める

男の人が、階段に腰掛けて
ギターをかき鳴らして歌っている
The House of the Rising Sun


その瞬間の、旅らしさに
いてもたってもいられなくなり
荷物を置き、川辺へ歩いていって
ちょうど出ようとしていたボートに、飛び乗った

ボートは、ざくざくと波を立てて
橋の下をくぐっていく

風をきって、大西洋へ
そこで、引き返す


ポルトガルの冬は
空気に色がついているように、感じる
透明に近い、果てのない青




ポルトガルらしい、カフェのようなパン屋に立ち寄ると
座っていたお客さん達が、口々に、おすすめをしてくれた
すごくおいしいよ、本当に甘いけど、と教わったパンを買い
ありがとうと手を振って、店を出た

ロープウェイで、ここにしかない景色を眺めながら
買ったパンを、食べる
たしかに、本当に甘い、と笑って
ああ、あのカフェで一口食べればよかったなと、思った



いちばん好きな街は、どこですか、と
訊かれる機会は、ものすごく多い
わたしはそれに、いつも、
住んでいたところは特別すぎるので、と前置きしたうえで
ポルトです、と、答える

わたしにとって
世界一の、旅先




ここにしかない風景
ここにしかない、時間

ポルトは、旅をすることの意味を
何度でも教えてくれる、町だ