馴染みの古本屋で、野尻抱影の美しい本を見つけ
これは、と、手に取る

お会計に持っていくと
野尻抱影は去年くらいから急に人気が出てしまってね、
なかなか見つからないんです、と
店主が、おもむろに声をかけてくれた

きっと、こういう作家さんが好きな人に響くんでしょう
そう言って、何人かの名前を挙げた店主に
なるほどと、頷く
たしかに、野尻抱影
もう天文学というジャンルを超えているみたいだ


話はどんどん、数珠つなぎ
石田五郎、牧野富太郎稲葉真弓松家仁之

村上春樹旅行記と音楽エッセイ、
それからサリンジャーの翻訳がよい、という話と
須賀敦子の手紙の本は罪悪感が勝って買えなかった、という話で
完全に意見が一致し、盛り上がる

須賀敦子を知ったのは翻訳からです、ギンズブルグの、と言うと
へええ、珍しいパターンだ、という答え
僕は彼女の訳ではサバの詩集が好きですねえ、という店主の言葉に
その詩集は随分前にここでいただいていきました、と、笑う


もう、長くこの古本屋には通っているのに
店主とこんなに話をしたのは、はじめてのこと

これだけ趣味が合うのだから、
道理でここには、いつも欲しい本があるはずだ



気がついたら、一時間近くも立ち話をしていて
夕食までの勉強の時間が、吹っ飛んでしまった

だけど、なんだか気持ちがスッキリとして
必要な時間だった、という、気がする
いつも、本の話ばかりしているようで
こんな風に思いきり話すということは、あまりないのかもしれない


小さいけれど、力のある、居心地のいい古本屋
それは、店主がそこにある本のことを本当によく知っていて、
そして愛しているからなのだな、と
あらためて、知った