誰もいない静かな店で
帰国後の営業分の、事務作業
祝日のきょう
子どもたちのはしゃぐ声が、どこからか聴こえる
日差しはまだ強く、空や葉の色に秋の陰りはないけれど、
開け放した窓からはさわやかな風が入ってくる
帰ってきたのだ、と、思う
ほんとうに今さらだけれど、やっと、この小さな場所に
カフェで本を読みたくて、
ひと駅分、歩いていくことにした
長い長い夏のあいだ、ほとんど歩かなかった道を
お寺のゆるやかな鐘に背中を押されるようにして歩く
突然、ぽっかりと空いたような広い更地に行き当たり
思わず、息を呑んだ
まわりの建物を確認して、ああ、そうだ、
ここには長年、どこかの大学の寮があったんだった、と気がつく
毎年、建物にはりつくようにして勢いよく咲いていた、
みごとな紫陽花の株も、もうそこにはなかった
あの花のことを覚えている人は、いったいどれくらいいるだろう
呆然として、川の風景を見つめるわたしの横を、
スマホで写真を撮りながら、何人もの人が通り過ぎていく
あまりにも鮮やかで、すこし切ない午後だった
2週間のあいだ、5日間は店を開け、
ほかの日はその準備や片づけをして過ごしていた
以前よりも幅広いお客さんがいる今年は、
やっぱり、これまでにはないことが起きたりもしたものの
弾んだ声が聞こえてくることも多く、いいお祭り営業だった
ただ、人数が多い分、行き届かないことがやっぱり出てしまって
もっとああできればよかったこうできればよかったと、反省もした
ときどき楽しみに来てくださる方々それぞれに、
いつも通りの過ごし方をしてもらえるのが理想なんだけれど
それを追い求めるのは、ほんとうにむずかしい
自分の仕事の意味が、わからなくなることもある
時間をかけてここを作って、
雑多に見えても些細なことまで考えて決めているからこそ
力不足で歯がゆいことも、
伝わらなくて泣きたくなることもある
それでも、わたしなりに、
明かりを灯せ!という強い気持ちでやっている
お客さんにも、ものを作る人たちや古いものを扱う人たちにとっても
できればちょっとした助けになる店であれるように
いまは、次の出張の日程を決めることが諸事情でむずかしく
しばらく宙ぶらりんの状態
だけど、この隙にエネルギーを貯めてより冷静になって、
また、次を考えたいと思う
とはいえ、きょうスウェーデンの会社から、
毎年発注しているカレンダーを送ったと連絡があったので
来週は、大ボリュームの検品作業が待っているはず
休む間もない毎日だけれど、今年もあと3ヶ月、
慌ただしくも、季節を感じて過ごすのだ