何度目かの、パリ


わたしにとって、パリへ来るのは
イギリス国内のどこかへ行くより、ずっと気軽だ
ロンドンからパリまでは、ユーロスターで2時間半ほど
そのうえわたしは、発着駅から歩いてすぐのところに住んでいる

そんなわけで、ロンドンでの学生生活のあいだ
わたしは、何度も、パリに来た
日本の大学生だった頃に訪れて、ここは好きじゃない、と思った街は
今でも好きというのとは違うけれど、特別な場所になった



きょうを選んで、ここに来ることにしたのは
仲のよい友だちが、出張で来ることになったからだ
いずれにしても、帰国前にいちど来るつもりだったので
日程をあわせてみたのだった

ボン・マルシェで待ち合わせして、お昼を食べ
食料品売り場をはしゃいで歩く
その後、ルーブル近くの喫茶店に移動して、
のんびり、コーヒーを飲んだ




Café Verlet
わたしはパリに来ると、かならずここに寄る
一緒に行けて嬉しかったな

あっという間の4時間
いや、ホント、一瞬だった

彼女も言っていたけれど
わたし達はどこで会っても、まったく変わらない
ただ、なんとなくしたい話というのが山ほどあって
ああ楽しかったな、でも何話したっけ、とあとで思うような
そういうなんでもない時間を(きっと)互いに大事にしている
まったく無理をしないでいられて、話が途切れることがほとんどない
京都でも、東京でも、ロンドンでも、そしてパリでも

忙しいなか、貴重な時間をありがとう




また仕事へ行く友だちを、ホテルまで送り
外にでると、青空
明日以降はあまり天気がよくなさそうなので
予定を変えて、散歩をする

チュイルリー公園
ここも、いつも、かならず来る場所だ

落ち葉が舞う時期も、人が少なくなる真冬も
真夏の光るようなチュイルリーも愛しているけれど
春の終わりは特別、いいな




ぶらぶらと、セーヌ川にかかる橋まで出てみる
ロンドンというより、京都を思いだす風景

恋人達の南京錠でいっぱいの欄干に、ひとりもたれて
ボートの音に耳を澄ませる

時間が止まったようだった




午後9時
宿の窓から、まだ明るい誰かの庭を見下ろす
なんでまた、屋根のうえに植物を置いたりしたのだろう


パリには、常宿と呼べる場所がある
いい宿どころか、“ギリギリのホテル”と言っているほどで
ホテル自体には褒められるところがおよそ見当たらないのだけど
なんだかんだ、このところいつも、ここに泊まっている

洗面台はあるけれど、シャワーとお手洗いは共同
インターネットはめちゃくちゃスロー
サービスらしきものは何もない
そして、古いホテル特有の、強い匂いがする

それでも、このあたりのホテルとしては並外れて安く
北駅からもオペラ周辺からも歩いて15分と、便利
そして、隣が美味しい中華料理屋なので
欠点が霞んでしまうのだった


空調のない部屋
開け放した窓から、風が入ってくる

遠くのサイレンの音、どこかの家のアラブ音楽
きっと顔を見ることはないだろう人たちの話し声

わたしにとっては、これもパリだなあ、と
ぺらぺらのシーツを肌で感じながら、思った