お店に立つ、午後2時
入り口のドアが開いた音に、振り返ったら
そこに、なつかしい人が立っていた

エッ!エッ!?とパニックになるわたしに、アハハと笑って
彼がこちらに歩くと、後ろにもうひとつ、なつかしい顔
うそでしょ、と、驚きを通り越して笑ってしまう

ふたりとも、会うのは四年半ぶり
最後に会ったのは、スウェーデンの南端、
ルンドという町でだった


わたしは、イギリスの大学から、
彼らは、日本の大学からの交換留学で、ルンドにいた
年齢は、わたしのほうがだいぶ上だけれど
ずいぶん、いろいろなことを話した気がする

その後、わたしは留学をつづけて、帰国し
彼らは日本の大学を卒業し、社会人になった
SNSで動向を知ってはいても、直接会うことはなく
気がついたら、四年半が経っていた


ひさしぶりに会ったふたりは
雰囲気が、ぜんぜん変わっていなくて
そんなに月日が経ったなんて、思えないくらい
見慣れた店に、当時の印象のままのふたりがいるのは
ほんとうに、ほんとうに不思議で、
ふと涙が出るような、じんわりとした感慨があった

彼らは、それぞれ
大津と鈴鹿で、今年から暮らしはじめたらしい
ふたりも、ルンドを出てからほぼ会っていなかったのだそうだ
鈴鹿に住んでいる子が車で、大津に住んでいる子を拾い
そのままここに来たと言うので、驚いた

わたしのこととか忘れてると思ってたわ、と本気で言うと
忘れないですよ、こっちこそ忘れられてるかもと思ってました、
気づかなかったらどうしようかって、と、ふたりも笑う
あの頃のままの、笑顔だ

思い出話や、いままでの話、これからの話
会っていなかった時間を埋める、
ぎゅっと詰まった、やさしい時間になった



ふたりとも、いま
仕事をどうするか、これからどういう風に生きて行くか、と
まさに、迷っている最中で
それで、わたしに会いたかったのだと言った

自分なりの人生を選んで、精一杯楽しんでいる人として
わたしの顔を思い出してくれたのなら、うれしい
すこしだけ、背中を押すような存在として
わたしを選んでくれたのなら、うれしい


わたしは、ほんとうに“ふつう”の人だけれど
意志と覚悟を持って踏み出せば、すくなくとも納得はできる、
彼らにとってそういうひとつの例になれれば、と、思う

この四年半のあいだ
わたしも、迷いを捨てられず、連れたままここまで来て
それでも、こうして日々忙しくやっているうちに
ああ、もしかしてちゃんと好きなことをやっているのかもなって
ほっとする瞬間が、いまは、あるから



ルンドにいた当時、ふたりはアパートをシェアしていて
(大学側から、たまたま割り当てられたらしい)
わたしは何度か、彼らの家へ遊びに行った
中庭で遊んだり、昼寝をしたり、ギターを弾いたり
自由で穏やかなふたりの部屋は、居心地がよかった

いつも愉しそうにぽろぽろとギターを弾いていた彼は
今も変わらず、音楽をやっているのだと言った
きっとプロになれるなんて、軽々しくは言えなかったけれど
あなたがいつも愉しそうで、
そしてわたしに、今からでも遅くないですよと言ったから、
わたしはギターを始めたんだよ、と
伝えたかったことを、伝えた


スウェーデンの、小さな大学町での
数え切れないほどのエピソードが煌めいている、一年を
わたし達は、ずっと、共有しつづける

自分の心が、わからなくなるようなときに
わたしはきまって、ルンドでの日々を、思い出す
ふたりにも、そんなことがあるのかな
ひとかたまりの、あの日々の美しい印象のなかに
わたしも、いるのかしら



ふたりは、ひとつずつ古いものを買っていってくれた
どちらも、わたしが特に思い入れのあるもので
それがまた、うれしい

わたしがお店で使っているマグと、同じものを選んでくれた子に
ごめんねお揃いで、と言って、笑った


ふわふわと、浮かれた
再会の時間は、あっという間

ほんとうに、来てくれてありがとう
また、会おうね