なにかに、縋りたい気持ちで
静かな庭へ

拝観時間の終わりまでの、一時間
たいてい、誰も来ないことを知っている

畳のうえに、ぺたりと座って
目の前にあるものを、ぼんやり眺める

さざめく悲しさを
他人のことのように感じていた


かすかな雨のにおい
水面を揺らす雫と
ときどき、尾ひれで水音をたてながら、
ゆらゆらと漂う、鯉

苔むした石のうえで
黒とんぼが、羽を閉じたり開いたりしている
彼らは、この庭に住んでいるんだろうか

止まない蝉の声
ここは、まだ、夏なのだ



電話が鳴ったのは、午前四時半
スウェーデンにいる友だちからで、
別の友だちが、大きな町の病院に運ばれて
一命を取り留めた、という、話だった

思えば、今年の春は、色々なことがあったけれど
ほかの子たちが泣いたり怒ったりしていたときも、
彼女は静かに、やさしく、まわりをなだめていた
だけど、その裏で、
どんなことを考えていたのだろう
そう思うと、鈍く、重い、やりきれなさが広がった


なにかを言うことが、正しいかはわからないけれど、と
そう前置きして、また別の友だちに、メッセージを送る
あなた達みんなのことを思っている、と、伝えたくて、
だけど、自分がすこし楽になりたかっただけかもしれない

ついこの間まで
いつでも彼女たちを抱きしめることができたのに

今は、もう
スウェーデンの森は、遠すぎる