ここへ来て、明日で一ヶ月になる


その間、ロンドンへ一度、
それからウプサラとストックホルムへ一度でかけた
あとは、基本的に、出かけるのは最寄り駅の周辺
そこまででも、歩いて40分かかるのだ

こんなに狭い範囲で長期間暮らすのは、初めての経験で
だけど、正直、戸惑う暇がほとんどない
案外、というべきか、ここでの生活はストイックだ
そして、とても忙しい

それでも、新しい毎日を
わたしはとても、愛している

これまで知らなかったことを知って
見えなかったものを見る
日々、新しいことができるようになって
日々、新しい言葉を得ていく
小さな世界で生活していながら、
着実に先を掘り進めているという手応えがあって
だからいくら疲れても、フワフワせずに、真っ直ぐにいられる


だけど、その一方で
穴のあいたような寂しさというか、やるせなさも抱えている
そういう自分に、気がついてしまった
それで、思いだしたのは
ふたつ前の冬にスウェーデン語の課題で書いた、詩のようなものの一節

“ただよう空気の匂い/忘れられた友人のことば
降らないはずの雪が降り/ここにはない教会の鐘が鳴る”

“氷は窓の硝子に変わり/ビルの森に短い昼が来る
幻想と現実のあいだで/わたしはなにも失くしていない”


そのときは、ルンドと、東京を思って書いた
いまは、同じ文字の列に
今暮らしはじめた場所と、ロンドンを思う

遠く離れた町と、そこにあった学生生活
ほんとうは、息もできないくらい、
あの場所とあの日々が、恋しい


でも、きっと
時間の流れを止めることはできなくたって
あの生活は過去のものだと、
いま、無理に割り切らなくてもいいんじゃないか
それだけ、ロンドンでの数年が、
わたしにとって大きな意味を持っているということなのだから

そう、わたしはきっと
なにも失くしてはいないのだ


ここを離れる、来年の夏
この場所と、あの街に、なにを思うのかな




そんなことを考えて、ややセンチメンタルだった今日
友だちの猫にめちゃくちゃ癒された
なんとか涼しい顔をしているけれど、皆にいじられ放題


うーん
やっぱりなるべく、ひとりの時間も持ちたいな

日常に活字を
部屋に音楽を

自分自身のこと、近くにあるものを
つかんで、離さないように