遠く高く透ける空に
ほとんど光のような山茱萸

梅の賑わいからすこし離れた場所にあるこの木を
毎年、ひっそり愛でている
春のはじまりの花だ


仕事場の共用スペースにあるベンチに
日本のあちこちに向けて旅立っていく箱たちを積む
日曜から、ずっと梱包に追われていたのだった

水を替えた三つの花びんと、淹れたばかりのお茶を近くに置いて
積み上げた箱の横に座り、タブレットで作業をする
お隣から、お菓子が焼ける匂いと、道具を片づける音

波に身をまかせるように、
陽だまりでゆらゆらした、午後

 

Vårvinter、直訳すると“春冬”ということになるのだけど
春と冬のあいだの季節をタイトルにしたプレイリストが好きで
毎年この時季になると聴いている
スウェーデンの森で暮らしていた年に作ったものだ

森の窓辺の印象もあるプレイリストだけれど、
それ以上に、オーランド諸島の風景を思い出すのは
イースター休みに出かけていったから
どうしてわざわざ、静かなところから静かなところへ行ったのだろうと
自分でもちょっと笑ってしまうけれど、
音楽と複雑に絡まりあった、やわらかな海辺の景色を思うと
あのときのわたしは、良い選択をしたんだろう


イースターで、どこもかしこも閉まっていた島は
ただただ、ひっそりとしていた
近くのホテルで借りた、足のつかない自転車を飛ばして
浮かぶ小さな島々を横目に、風をきり、喉を枯らして歌った

今オーランドには自分しかいないんじゃないか、というくらい
早春の島で、わたしはひとりで
そのことがなによりも爽快だったのを覚えている

 

 

プレイリストの一曲目は、Isbellsの“Billy”
これを最初に置いた理由はもう覚えていないけれど、
いまだに、聴くたびに涙を堪えている

“But now he’s ready, ready to
To leave, forgive, forget for good
And live his life like he never did before

So now he’s ready, ready to
To leave his pain, his pain for good
And show what he’s all about to the world”


冬から春へ
この季節が好きなのは、
春が持つ(とわたしは思う)、有無を言わさぬ勢いとその残酷さがまだ薄く
希望だけがほのかにあるような印象だからなのかもしれない

ままならない日々も、やりきれない思いも、
今なら、光にまかせて
音楽に溶かしてしまえるような気がするのだった