f:id:lumi31:20200823033505j:plain

 

臨時休業の店での仕事中
そういえば、なにか届いていないかしら、と見に行くと
ポストの底に、一枚の絵葉書

春以前、たびたびいらしていたお客さんから
大阪にお住まいだそうで、状況を思うとなかなか再訪が叶わないということ
それから、店のSNSを見て感じてくださったことなどが、
わたしへの気遣いの言葉とともに、書かれていた


仕事で大変なことが続き、すっかり参っていたので
触れたやさしさに、胸のあたりが大きく波打つ
せり上がってくる涙をぐっと抑えて
モニターの横に、葉書をそっと飾った

翳りのある、美しいコローの絵
描かれている大聖堂は、ロンドンのセント・ポールにも少し似ているけれど
ローマの風景なのだそうだ

まだ見ぬローマと
しばらく会えていないお客さんを、思う
ひとりの静かな昼

 

店を予約制にして、ふた月
お盆には、体裁だけでもいつも通りにできたら、という淡い期待も散り
毎年出張に行っていた時季が近づくにつれて
気持ちを強く持つことが、難しくなっている

もちろん、仕方のないことだとわかっているけれど
今週、来週、再来週の、
そして、三ヶ月後、半年後、一年後の多くのことが砕けてしまった今
現実を、ある程度冷静に直視しているからこそ、
自分自身の慰めの声は、届かない

目に見えて失ったもの以上に
潜在的に失いつづけているというものが、大きくて
考えるほど、打ちのめされてぼうっとする
目の前で、これまで手から零したくないと神経を尖らせていたものが
砂時計の砂のように、さらさらと落ちていく

でも、“もし、こんなことにならなかったら” なんて
もう、どこにもないから


今週、店を休みにしたのは
本当は、ウェブなどの準備をするためだった
だけど、現地と色々話をしなくてはいけない、
そしてこちらでも多くのことを調べる必要がある、という案件が次々出てきて
それに時間が圧迫され、一週間が終わってしまった

それでも、しつこいようだけれど、
こうして地道にやっていくしかない
行くことができないなら、遠くから関わる方法を考える
顔を合わせて話ができないのなら、言葉を尽くす
お客さんに自由に来てもらえないのなら、
不自由な枠内の時間で、ひとつでも多くの新しいものを見てもらえるようにする
前のようにできないものは、できない、
だからこそ、と思う


わたしは、もちろん、特別なひとりじゃない
多くの人がこうして、いわば最大限の工夫を凝らしているというのは
想像を巡らせるほどに壮絶なことだし、そこに希望もある

かと言って、皆耐えているのだからあたりまえ、というわけでもない
わたしの痛みは、やっぱりわたしだけのもので、
だからときどき自分を褒めながら、ただ必死に自分自身をやるだけだよ

 

零れていくように感じる、もうありえない未来じゃなくて
いま、ここにいてくれる人たちを大事にしたい
取引先でも、お客さんでも、
恋人でも友達でも家族でも、そう

まだ見ぬこれからが、どんな風になっていくにせよ
目の前の人と出会わなかったという道は、
もう、どこにもないのだから