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午後いっぱい
ひとり、うす暗い店で仕事


経理、それからちょっと商品撮影をして
ディスプレイに手をつけた
そもそも点数が多すぎるうえ、制約が多すぎて
配置のバリエーションがない店内だけれど
角のテーブルだけは、季節ごとにそれなりに変えている

軸になるもの、そしてクロスを決めて、
合いそうなものを、持ってくる
しっくりこなければ、別のものと交換して、を繰り返し
組み替えて、なんとなくかたちにする

最後に、ガラスケースをテーブルに戻して磨き
コンパクトやジュエリーの入れ替え
それも、同じようにして、
少しずつ雰囲気をつくっていく


実はけっこう、骨の折れる仕事だし
わたしは、けしてディスプレイがうまくない
でも、この時間が好きだ

ひとつひとつのものを、時間をかけて眺め
たたずまい、存在感について、考えるということ
心が洗われる気がする

 

スピーカーで、ちいさく音楽をかけながら
最近、日程の関係でお断りした仕事のことを考える
もし受けていたら、なにか一曲、
“好きな曲”を選んでいたはずだった

 

 

人生で、とくに大切に思っている曲、というのは
わたしの場合、何曲もある
たとえばエミリアナ・トリーニのように
お店のライブラリにも入れていつもかけているものもあるけれど
たいてい、大切な曲というのは、聴きたくなったときに
そっと取りだして、抱え込むようにして聴く

だけど、この曲は、特殊で
いつも同じ場所、
関空か伊丹へ向かう車内で聴いている
こういう曲は、ほかにないんじゃないかしら

気負わない旅の匂い
そして、ぼんやりとやさしい希望の美しさよ


わたしの一曲
もしかしたら、これだったかな、と思い当たって
自分で意外だった

企画の趣旨で、こうして、意外な自分に会えるなら
受けてみたかったなあ、お仕事
日程ばかりはどうしようもないけれどもね

 

ちょっと、目を閉じて
思いを巡らせる

聴きたくなって、ライブラリを繰り
考えたけれど、やっぱりここではかけないことに決めた

僕が旅に出る理由は
だいたい百個くらいあって、と
かわりに、歌いだしだけ口ずさみながら、
百個で足りるかしらと、笑う


気持ちにささくれができていたはずが
なんだかいつもより、ちょっと幸せだった
穏やかなひとりの、仕事の午後