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朝のうちに、溜まっていたデスクワークを済ませ
セント・パンクラス駅から、北方面の電車に乗る

一年半ほど取引をしている作家さんに、会いに
レスターという町へ


彼女の作品に出会ったのは
大学の近くの、馴染みのインテリアショップだった
ほかの誰にも似ていない柄ゆき、色づかいに
文字通り惚れ込み、連絡先を調べた

展示会などに出ていない彼女とはなかなか会えず
やりとりはいつも、メールで
それでも、文通をするように色々な話をしてきたから、
素敵な人だということはわかっていたけれど
一度、ちゃんと会いたくて、
レスターまで出かけていくことにしたのだった

 

彼女は、やっぱり
一見してそれとわかるほど素敵な人で
まるで、本当に、長く文通をしていた友人にするように
わたしを迎え、レスターを案内してくれた

ものを作るときにお世話になっているという人たちのところを巡り
スシ・レストランで、店主とお喋りしながらお昼を食べ
(本当に美味しかったので驚いた、横浜で修行をしたのだそうだ)
アトリエのある建物の仲間たちにも紹介してもらった

彼女のパートナーまで、職場が近いからといって、
わざわざ挨拶しにきてくれたのには笑ってしまった
彼女も、たしかにここで食事をするって言ったけどまさか来るなんて、
へんな人だと思った?ごめんね、と言って笑っていた

なにもかもが、あたたかくて
なにもかもが、うれしかった
特別な時間


引っ越して間もないというアトリエは、
美しい色柄の作品で、いっぱい
これまで実物を見たことがなかったものもあって興奮し
あれもいい、これもいいと騒ぐわたしに
彼女はひとつひとつ、説明を加えてくれる

わたしも、自分の店での売れ行きなど
柄や色ひとつひとつについて、包み隠さず話をする
卸してそのままというのが嫌だといつも話している彼女は
真剣に頷きながら、わたしと一緒になって考察をしていた


その場でオーダーしてもいいと言うので
歩き回り、あらためてものを見ながら、考える
こんな色も作ってるんだ、かわいい、と布を手に唸るわたしに飛んでくる
柄をもうすこし小さくしてティータオルにもできるわよ、という
魅力的すぎる提案

ノートの柄で悩んでいれば、
それに合わせるならこれはどう?きっと好きだと思う、
よかったらこの柄でノート作ってみるけど、と
ラッピングペーパーを持ってきてくれる
これではもう、ほとんどオリジナル商品
こんなオーダー風景、なかなかあるものじゃない

それもこれも
彼女が、ふだんから細やかに仕事をしているから
その姿が眩しくて、
ああ、ここに来てよかったと、思った

 

ビジネスをあまり大きくしたくないのだと、彼女は言う
レスターの人たちだけに頼んでいいものを作り、
そして自分の考え方を尊重してくれる人に預けたい
売れればそれでいいとは全然思っていない、と

だからマーケティングをしていないの、
ここで誰かが来てくれるのを待ってるだけ、
そう言って彼女は、茶目っ気たっぷりに肩をすくめるけれど
そこには、強い強い意志がある

“よく売れるものを売るという人も多いけれど
あなたは自分が本当に好きなものを売っているでしょう、
よくわかる、わたしはそういう人と仕事がしたいから”
信念のもとに立つ彼女のその言葉は、わたしにとって
これからを支えてくれる、最高の褒め言葉だった


結局、たっぷり4時間
止まることなく、話し続けた

価値観を共有できる人のものを扱っている、というのは
お客さんには、必ずしも伝わらなくていいけれど
それでも、わたしには重要なことだ


駅まで送ってもらう車のなかで
あなたが仕事でいちばん大事に思っていることはなに?と
そっと訊いてみた

彼女は、passionよ、
あなたは?あなたもきっとそうでしょう、と言って
こちらに視線を投げ、やさしく笑った

 

誰かと一緒なら
大切にしたいことを、もっと大切にできる
信じたいことを、より迷いなく信じられる

どうか、彼女にとって
彼女が生み出すものものを愛して遠い国で売る、わたしも
そんな誰かでありますように
本当に、そう願っている