早朝から地方で仕事の、一日

夕方ロンドンに戻り、荷物を置いてすぐに
今度は、バスでWaterlooへ
大学時代、通っていた店に行くためだ


ひさしぶりに来た店には、
以前のように明かりがついていて
それだけで、ちょっと泣きそうになってしまう

閉店してしまった、この店に
在庫を引き取りに来るなんて
何年か前には、ほんとうに、想像もしなかった



店主は、あいかわらず
すらりとハンサムで、おおらかな、明るい人だった
握手をしながら、最初にここへ来たとき
ここは初めて?僕はLeeです、
17年この店をやってるから何でも聞いてよ、と
やっぱり握手を求められたことを、思いだした

25年の、節目に
この店は閉じることになった
セントラル・ロンドンで店をやっていくことは難しいよ、
とくに今はね、と言って
彼は、寂しそうに笑う

明かりをつけて、ものを選んでいると
開いていると思って、次々に人がやってくる
実は店を閉じたんだ、でも最後に見ていってよ、という調子で
どんどん人が増えていって
まるで開いていた頃みたいに、賑やか

ミッドセンチュリーの映画音楽に合わせた
Leeの完璧な口笛
自由で、雑然としていて、
でも完成された、ひとつの世界


カウンターでわたしが選んだものを包んでいる、Leeに
25年店をやっていたのねと、声をかける

Yes, too long、と彼は笑って
いまは忙しいからあんまり閉めるって感じがしないけど、
しばらくしたら実感して、悲しくもなるんだろうな、と
いつも通り、軽やかに、言った



別れぎわ、彼は何度も
ありがとう、と言ってくれた
連絡をくれてありがとう
きょうは来てくれてありがとう
長い間、お客さんでいてくれてありがとう
この店を愛してくれて、ありがとう

こちらこそ、ありがとう、と
笑顔をつくるのが、精一杯だった
悲しい、何度も何度もここへ来たから、と声を詰まらせるわたしに
彼はまた、ありがとう、と言って、右手を差し出した

それでも
また会いましょう、よい2018年を!と
最後の挨拶は、明るいものだった


この店は、なくなってしまうけれど
忘れないという人は、きっと大勢いる
わたしも、もちろん、そのひとり

思い出を、大切にしているとものものと一緒に、仕舞って
きっと、またいつか、会いましょう