よくあることといえば、そうだけれど
明日は早い時間から仕事だというのに
今の今、夜が更けるまで、一冊の本に熱中していた

エリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』
頁をめくりつづけ、ほとんど一気に読み切った

グロテスクな描写が苦手なわたしは
この手の小説は、あらすじを読んでけっこう避けてしまう
これもやっぱり、頁から目を背けるところが多々あったけれど
それでも読んでよかった、本だった


なぜこうなるのか、わからない、というのが好きだ
圧倒的な不条理が、軽やかなタッチの絶望が、
ひんやりとした手触りの文章が、
突然幕を引かれて、それでも余韻のある小説が好きだ

そういう本に、こうして出会うと、
ただただ、嬉しくなってしまうな
誰かに薦めることは、なかなかできないんだけれど


そしてその夜、ヘレンとわたしがベッドに横たわっていたとき、見晴らし窓ごしに野獣の姿を形づくる星々をながめながら、あなたがいままでパタゴニアの物語を話そうとしなかったことのほうが、あなたについて発見したどんなことより意味深いわとヘレンはいった。
彼女のいうとおりかもしれない。おかしなことじゃないか?人が心に秘めて話さないことがそんなにも重要だとは。人が話すことのほとんどすべてがカモフラージュか、ひょっとすると鎧か、さもなければ傷に巻いた包帯にすぎないとは。(63頁)

この一冊には
たくさんの物語が、散りばめられている
本筋と関係ありそうなものも、なさそうなものも
どれが虚でどれが実なのか、判然としないまま
主人公(とおそらく呼べるだろう人物)は、
(彼の言う)恋人、ヘレンと、物語のひとつを織りなす言葉を交わす

二人の会話には、鮮烈さはない
それでも、そのふしぶしが、
読んでいる最中に、そして読み終わったあとに、
何度もやってきて、ほのかな光と、濃い影を落とす

わたしには、この層が、ある種の救いになっているように思える
たとえ、そのすべてが、
存在するかわからないものだったとしても


それにしても、びっしり鉛筆が重ねられたデッサンのような
緻密な印象の小説だった
この感じは、ひとつひとつの文章から来ているんだろうな

ほかの作品も、全部読みたい
そう思う作家に出会った、よい夜