火曜日に買ったばかりの
レイ・ブラッドベリ『恐竜物語』

熱中して、あっという間に読み終えたけれど
まだ、残響が身体の真ん中に、波打つように残っている

恐竜が好きな子どもだった頃のわたし、
そして今のわたしに、まっすぐに向かってくる
力のある、どこをとってもワクワクする一冊だった



この本は、その名前の通り、恐竜をテーマにしたアンソロジー
メビウスジャン・ジロー)を筆頭に、
7人のアーティストが挿絵を描いている

本屋で、ページを捲ってみた瞬間から
挿絵のすばらしさだけでない、その奥行き、広がりに驚いた
手に取るだけで心が躍ったのは、
わたしが特別恐竜が好きだからというのも、きっとあるけれど
なにより、ブラッドベリの恐竜への愛が
この本にはぎゅうぎゅうに詰まっていると感じたからだ


特に印象に残ったのは『霧笛』
霧笛に惹かれ、長い時間をかけて灯台へやってくる、
一頭だけこの時代まで生き残った、恐竜の話だ
正直、この一編が収録されているだけでも
この本には大きな価値があると思う

恐竜は、とうの昔に地球からいなくなっている(と思われる)から
もちろん、これを実際の映像にすることはできない
けれど、この一編は、まるで映像のようだった

一方で、文章、その表現のうつくしさが際立っている
いいところを取ったような、傑作


叫びは、海水と霧をへだてた百万年のかなたからわたってきた。あまりにも悲痛で孤独な叫びなので、それはぼくの頭の中に、からだ全体に、がんがんとひびいた。怪物は塔にむかって呼びかける。霧笛が鳴る。怪物はふたたび吠える。霧笛が鳴る。怪物が歯のいっぱい生えた大きな口をあけるとき、そこからほとばしりでるのは、霧笛の音そのものだった。寂しく、茫洋として、遠い。孤独と、見通しのきかぬ海と、寒い夜と、別離を訴えかける音。まさしくその音だった。(156頁)

幻想的な深い霧のなかの
“寂しく、茫洋として、遠い”音

聞いたことがないのに、知っている、という気がする
自分に呼びかける、孤独の声


『霧笛』が、これだけの引力を持っているのは
物語が、わたし達の感覚から、大きく離れてはいないからだ

こういうことは実際起こらないとわかっていて、なぜか、ありそう、と思う
ドラマチックで、映画のような強さをたたえながら、
どこかでふと聞いた伝説のようでもあって
だからか、不思議ななつかしさが残る

短い話なのだけれど、まったくそれを感じさせない
ブラッドベリは、やっぱり天才だ



今夜は、もう
音楽も聴かずに、このまま

読んだ本の余韻を、こんな風に見送るのは
結構、ひさしぶりのことかもしれない



恐竜物語 (新潮文庫)

恐竜物語 (新潮文庫)