ぽっかりと空いた時間
カフェで仕事をしようと、仕事場を出る

駅のほうから、華やかな学生さんたちの波
時計を見ると14時半で、
ああ、4限ってこの時間だったかも、と思い出す

この4月からは、オンライン授業もだいぶ減ったのか
また、こういう光景が見られるようになった
まさか、これだけのことに、
こんなに感慨を覚える日が来るなんてね

 

今週は、ゴールデンウィーク前で、
わたしの店は最近になくすいている

だけど、よく考えたら
桜のシーズンが終わってからまた、
京都、とくに周縁の地域は、人があまり出ていない
うちに、遠くからの方を含め、多くのお客さんが来てくれていたのは
きっと普通のことではないのだった


頼むから落ち着いて、と円相場を見守りつつも
いつなんどきでも仕入れはあるしなあ、と諦めの境地
信頼しているディーラーさんからの写真を繰り
ひとまず、ティートリオ3セットとプレート3枚、
そしてシュガーボウルとポットにチェックをつける

夏に向けて、スペインの取引先にも大きなオーダーを送る
いまでよかったと思うのかは、後々にならないとわからないわけだし
長く考えていてもねえ

とにかく、楽しい店でありつづけるために
バランスよく、思いきりもよく、やっていくしかないのだよ


そんなことを考えていたら、
さっそく、スペインからメールが返ってきた

親しみのこもった文面の先にあるのが、バルセロナだと思うと
ロンドンやベルリン以上に、不思議な感じがする
頻繁に訪れていた町ではないというのもあるけれど、
そもそも、記憶のなかにある明るさが異次元だからだと思う

以前、この会社のペルー出身の担当者と会い、昼食をとっていたときに
バルセロナは好きかと子供みたいな質問をしてしまったことを、よく覚えている
ここはどの場所もバルセロナ以外の何でもなくてちょっと退屈、
でもそんなところがいいと思う、と、笑って答えてくれた
彼女にはこの街がわたしとはまったく違う風に見えているのだと、眩しかった

わたしにとってのバルセロナは、
退屈とは無縁に思える、光に満ちた場所だけれど
それでもまず思い出すのは、あのときの言葉

 

 

きのう、やさしく、芯の強い方からいただいたカードを
デスクに、お守りのように飾った
余すところなく美しくて、飾ることすらも勿体ないけれど
それでも、いつも目に入るところにあってほしい
自分が自分であることが、ただひたすらに苦しい日に
きっとわたしを支えてくれる

いつか、なにも心配しなくていいようになったら
一緒にお茶をしましょう、という約束を
叶えられる日まで、きっと

 

気がつけば4月も後半
また、忙しい週はじめが巡ってきて、
梱包とデスクワークを行ったり来たり

いただいていたお菓子を開け、
ふわふわに癒される

日本の大学にいた頃
仙台出身の同級生が、帰省から戻るたびに、
萩の月を研究室に置いてくれていたなあ、と
何年かぶりに、思いだした


肌以上に、髪に心身の状態が出るわたし
このところは、すっかりツヤを失って
どのトリートメントを使ってもガサガサだったのだけど
ようやく、回復のきざしが見えてきた
仕事でもそれ以外のことでも
以前よりは、未来に希望が持てるようになったからだろうか

これは、正直なところ開き直った結果で、
なにかが解決したかと言うと、そうでもないんだけれど
まあまあ、それでもいいんだよ

 

もう、はるか前のことだけれど、
1ポンドが、なんと260円だったころ
ひとり、ロンドンで3日間だけ過ごしたことがある

マクドナルドでもなにも食べられず
もう、どうやって食事をやり過ごしていたのか覚えていない
安ホテルは、いま考える安ホテルよりもはるかに安ホテルで
ベッドは割れていたし、窓の鍵が閉まらなかった

地下鉄やバスの初乗りも高く、
と、いうかそもそも地下鉄は3日ずっとストライキ
道を聞けばその人にあとをつけられて怖い思いをし、
郊外へ出かけていけば道端で子どもに脅かされ
まあ、途中から円安は関係ないんだけれど、
もうイギリスには二度と来ないと心に誓ったものだ

その後、まさかロンドンの大学に入り直して
暮らすことで、あの街を愛するようになるなんて思わなかった
なにもかも想像がつかなすぎて、笑ってしまうでしょ


もう、わたしは当時のような学生ではなくて
あんなことがあっては、仕事がぜんぶ吹っ飛んでしまう
だからいまと、もちろん比べることなんてできないんだけれど
一周回っていい思い出になっているあのロンドン滞在の記憶を
つい引っ張りだしてきてしまうな

どうかどうか
これ以上状況が悪くなりませんように
明るく笑い飛ばしながら、
とにかく、そう願っている

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日記帳として使っているPoetry Diaryの、今週の頁
D. H. Lawrenceの詩に釘づけになる

 


The dawn was apple-green,    
The sky was green wine held up in the sun,    
The moon was a golden petal between.    
 
She opened her eyes, and green    
They shone, clear like flowers undone
For the first time, now for the first time seen.

 

景色は、こんなにもさまざまに見えて
こんなにも鮮やかに言葉になるのだな


ここにも、そして手帳にも、わたしは日記を書いているけれど
こうして日々駄文を生むことに理由があるとすれば、
それがどんなものであれ、言葉は残り
記憶は薄れていくからだ

いくつもの言語を学ぶ理由もまた、元を辿れば同じかもしれない
書かれた言葉は、空間を超え、時間を超えて
ほんのすこし誰かの目を借りることを教えてくれる

わたしが執着して、息をするように日々求めているのは
きっと、そういうこと

 

今週、新しい取引先が決まった
商品がノートとカードで、あまりにもうちに多いものなので、
以前から知ってはいたけれど、手が出せずにいた会社

その後、ずいぶん商品の柄なども増えたし
なにより、やっぱり日本のほかのどの店より先にうちで扱いたくて、
声をかけてみることを決めた

先方も、こちらのことをずいぶん前から知ってくれていたらしく
うちの店が好きだととても褒めてくれ、
その一部になれてうれしいと言ってくれた
ものを作っている方にそう思ってもらえて、一緒に仕事ができるというのは
店を経営している者にとって本当にありがたいことだ

まだ店が完成していなかった5年前、初めて行った展示会の会場では
こんな風にしたいと思ってる、と構想を書いた紙を見せ、話をして歩いた
今は作り手の方々が、こうしてうちをご存知だったりするというのは
あの頃を考えると、感慨深いね


あのとき決めておけばよかったと、いつか悔やむ日が来るんじゃないか
そう思える事柄には、迷いながらも手を伸ばす
仕事にかぎらず、それはわたしが指針にしていることのひとつ

まあ、今回の商品は、
扱うことを決めて後悔するっていうことは絶対ないからさ
こういうことを言うのもなんだけれど、決め得だよねえ、と前向きに


無事に初オーダーも完了し、いま輸送手段を調整中
届くのが待ち遠しいな

もっともっと楽しい店に
5年経つけれど、それでもまだはじまったばかりだ

 

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カメラロールにあふれる桜
ソメイヨシノは、ほとんど散ってしまったけれど、
枝垂れはいまが盛りだ

今年は、仕事前に出かけていったり、空き時間に歩いたりして、
とにかく、できるかぎり桜を見た
晴れの日が続いたということもあるけれど、
見逃してしまったらなにかを失うのでは、というような
自分でも理解しがたい切実さに動かされていたように思う

目で、肌で、その季節を感じないままに、時間が流れていくことが
わたしは、そんなに怖いんだろうか


2週間ぶりの休日だったきょうは、姪が襲来
預かっている間、いつもの10倍の量の我儘をノンストップで繰り出し、
わたしの体力をしっかりと使い切っていった

我儘、とは言ったものの
彼女もさまざまなことを感じて、考えようとしているにちがいない
変わっていくまわりへの、期待感や、寂しさ
お喋りが達者な姪だけれど、まだ言葉にならない部分は大きいんだろう

もちろん、この先の姪が違う人間になるわけではなくても
この小さな人の視線の先にあるものをすこし教えてもらえるというのは、
今だからこその贅沢なのだな
振り回されながらも、そう、思う

結局、休みらしいことはほぼできなかったけれど
これもまた、休みの日だからできることだ

 

円安に苦しんだ結果、もうスッパリと諦めて
次々に大きなオーダーを入れた、この2週間
イースター前だからか、連絡が滞る取引先が続出し
これからオーダーを変えるわけではないけれど、すこしだけ揺らぐ

為替にかぎらず、見直しができるだけの時間的余裕、というのは
迷いを生んでしまうことがときどきある
いや、余裕はあるに越したことないんだけれども

決めたら潔く、引きずらない
先々を考えて、無数のことを決めなければいけないからこそ
それを徹底したいと思っているけれど
これだけイレギュラーなことが続くと、なかなか難しいからさ


2週間、あまりにも考えなくてはいけないことが多かったから、
今週は、頭をすこし休ませたい

まずは、ちゃんと寝ることかな
悩みの種だらけの毎日でも
なるべく慌てず騒がず、行きましょう

 

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目が覚めるような青空と
桜をふちどる光

すこし離れた郵便局まで、歩く
仕事場のまわりは桜の木が多いから、
歩けばそれがお花見だ

もう少し、このままでと
花びらを頬で受けながら願う
風に攫われてしまいたくなる季節


仕事場に戻ると、
入り口のところで、大家さんとお隣さんが立ち話をしていた
だべってました、と言うので、
学生のころみたいな単語だなあと可笑しかった

わたしもしばらく加わって、
どこの桜がもう咲いているか、ということや
目が良すぎるトンビの話、近所の焼きたてマドレーヌ情報
いつもいつもこうして集まるわけでもないけれど、
ゆるやかなお喋りが浮かんでは消えるこのビルが好きだ

長く空いていた一部屋も、ついに新しい人が決まったらしい
店舗ではなく事務所とのことだけれど、
きっと、もっと明るくなるね

 

土曜日から、予想していたよりはるかに仕事が忙しくなり
夜中まで梱包作業などしていたけれど、
明日で、ちょっとひと段落

確定申告の前から
結局、あまりちゃんと休めていない
まだしばらくは、こういうときが続くのかしら


ああしたい、こうしたい、を並べてみる
読みたい本を積み、編みたい糸を置いておいて
それを持ってどこかへ行くことを、想像する

ゴールデンウィークが終わったら、まとまった休みを取って、
どこか遠くの街で過ごそうか

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足の怪我でなかなか動けない母を連れ
毎年かならず訪れる場所で、早めの花見

水曜日で、桜もまだ満開ではないというのに、
それなりに混んでいて、不安になりつつもうれしい
地元には静かであってほしいけれど
人もまばらな京都は、やっぱり寂しいのだった


昔はこんなに店もなかったのにねえ、などと言い合いながら
いつもの地蔵尊に立ち寄る
わたしが留学していた頃、母はその前を通るたびに
無事卒業して帰ってこられるようにと手を合わせていたらしい

お線香が、一部売り切れていたので
ふたり並んでお賽銭だけ入れ、願いを唱える
どうか皆、健康にと
いまは、本当にそれだけ

 

つらいことばかりが続く、輸入業
最近の円安は、まさに駄目押しという感じで、
お客さんの手に渡るときを考えると
仕入れられないという値段のものが、さらに出てきてしまった

春から初夏に向けて、ヴィンテージのジュエリーを増やしたい今なのにと
さすがに落ち込んでいたのだけれど、
あるディーラーさんが気遣ってくれて
昨晩は、たくさんのイヤリングやブローチを仕入れることができた
半世紀前の西ドイツやオーストリアチェコスロバキア、イギリス、そしてアメリカから、
時間と空間を超えてきたものたち


共有してくれた2000枚を超える画像のなかに
フェイクパールをあしらった、蝶のような花のような形のブローチがあった

なんとなく心ひかれてスクロールの手を止め
これ素敵ね、シンプルだけどエレガントで、と口にすると
それを気に入ってくれるなら本当にうれしい、
実はわたしのプライベートコレクションを手放すことにしたものなのよ、
1960年代、高校生だった頃に買ったの、という

じゃあこれはわたしが継ぐわ、と答えて
画像にチェックをつけ、二人で笑った
この状況下、遠く離れた土地で暮らし、年齢も違っても
ものを挟んでこんな風に話ができるのは、つくづく幸せなことだ

 

さてさて
昨夜はそんなこんなで、朝4時過ぎまで仕事をしていたから
きょうは早く寝ないとな

書けないことばかりだけれど
かき集めたきらめきや明るさが、きちんと店に並んでいるならば
なにもかも報われるような気がするよ

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やっと来た休みの日
雲ひとつない青空に、気をよくして
花屋さんとドーナツ屋さんへ出かけることに

そろそろ身支度をしようかという時
ちょうど妹から母に、姪とピクニック中だという連絡が入り
せっかくだからと予定を変え、まずは顔を見に行く
喋り、はしゃぎ、フリスビーの如く走り回る姪に
元気だなあと感心しきり

数日前にはまだ蕾だった連翹もいっぱいに咲いていたので
姪に、れんぎょうっていうんだよ、と教えてみると
黄色い花をやさしく手で包んで、れんぎょう、と繰り返していた
姪のこういう細やかなところが、わたしは本当に好き

春を超えて、初夏のような陽気
眩しい午後だった

 

花屋さんでは、すこし迷って、フリージアを買うことにした
そろそろ季節が終わってしまうから、その前に

フリージアを見ると、いつも、
似た発音の名前の友だちを思いだす
ほがらかで、笑顔がやわらかく、
靴のつま先が花にかかってしまったことに気づいたときには
しゃがんで撫で、ごめんね、と言うような人
わたしにスウェーデンのこの時季の花を教えてくれたのも、彼女だった

いまは、かつてなくあの場所を遠く感じるけれど
またいつか、会って他愛ない話ができるかな


散歩道では、白木蓮も満開になっていた
年に一度のご褒美、お祭りのような季節

以前大好きなカフェだった場所の引き戸が開いていて
扉の近くにいたご夫婦に、思わず声をかけた
もうすぐ、週末だけのコーヒー屋をオープンさせるそうだ

ここは散歩道なんです、と言うと
そうなんですか、今ちょうど木蓮が綺麗ですよね、と
店主さんは眼鏡の奥で笑ってくれた


時間は流れる
どんなときでも、確実に

ほんとうの初夏がやってくる頃には、
この街は、どんな風に変わっているのだろうね